グリーン水素の生産実現 米国のインフレ抑制法が促す
米国ではインフレ抑制法が成立し、21世紀のエネルギー・気候変動プロジェクトに約3690億ドル(約50兆5000億円)が投入される。これは、水素を巡る経済や米国内の風力タービンおよび太陽光パネルの生産に恩恵をもたらすものだ。 環境に優しいグリーン水素は再生可能エネルギーにより生まれるもので、環境汚染もなく、出るのは蒸気だけだ。ブルームバーグ・ニューエネルギー・ファイナンス(BNEF)は「Hydrogen Economy Outlook(水素経済の見通し)」の報告書で、グリーン水素が2050年までに世界のエネルギー需要の24%を供給し、二酸化炭素の水準を34%削減させる可能性があるとしている。 燃料電池システムを開発するプラグ・パワー(Plug Power)のアンドリュー・マーシュ最高経営責任者(CEO)は電話会議で「この法律が可決されることで、当社の電解槽やグリーン水素事業にブームが訪れることを期待している」と述べた。 またマーシュは「肥料の生産など、現在(化石燃料を使った)グレー水素を活用する全ての利用方法において、これからはグリーン水素を競争力ある価格で買えるようになるだろう」と語っている。 天然ガスの改質は現在水素の99%を占め、グレー水素と呼ばれている。目標は、電解を活用して再生可能な資源から水素を作ることだ。 市場の力は推進力となっているが、気候変動による問題を食い止めるには不十分だ。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、陸上風力発電のコストは15%下がり、洋上風力発電のコストは13%低下した。また、屋上太陽光発電のコストは2020年以降、13%減少している。これこそ、再生可能エネルギーが4年間で発電の設備容量の約80%を供給してきた理由に当たる。 IRENAのフランチェスコ・ラ・カメラ事務局長は筆者に対し、再生可能エネルギーは節約になっていると語った。現在の化石燃料の価格と比べた節約額は、世界中で約550億ドル(約7兆5000億円)だ。 ラ・カメラは、既存の設置基盤の260ギガワットを2030年までに800ギガワットまで増やし、再生可能エネルギーの投資を世界で3倍にすることが必要だと述べた。これにより、新たに8500万の雇用が創出される。グリーンエネルギーは現在、世界のエネルギーポートフォリオの14%を占めている。 ■規模拡大とコスト低減 米議会は、米国内の石油・天然ガスの開発により多くのエネルギーを注ぐべきだと主張する批判者もいて、こうした人は政府支出の増加にも反対している。 しかしこうした批判者は、コロナ禍のピークに2兆ドル(約270兆円)を費やして米経済の活性化を図ったトランプ前政権を評価していたため、良い結果を出すための資金分配に反対しているわけではなく、環境に優しい技術に新たな資金を充てることにのみ反対している。
グリーン水素の供給量拡大
インフレ抑制法は、パリ協定に参加している米国にとって良いものだ。その達成に向けては、グリーン水素とそれから派生するグリーンなアンモニアが、特に重工業と輸送セクターで重要な役割を果たすだろう。 これこそ、再生可能エネルギーに投資する豪企業フォーテスキュー・フューチャー・インダストリーズ(FFI)が、ドイツのポリマー製造業者コベストロ(Covestro)と共同で取り組んでいることだ。FFIは、早ければ2024年から毎年最大10万トンのグリーン水素を供給する予定だ。 同社はアンドリュー・フォレスト会長の下、2030年までにグリーン水素の供給量を1500万トンまで増やし、最終的には年間5000万トンまで拡大することを目指している。FFIは、世界でも有数の大規模な電解工場(水素と酸素を分離する伝統的な方法だ)をオーストラリアに建設中で、重工業の脱炭素化が可能であることを示したいと考えている。 水素は現在、石油精製や肥料生産に広く活用されているものの、さらに活用量を増やすには輸送や建築物、発電へと拡大させる必要がある。 コベストロのマーカス・シュタイレマンCEOは「グリーン水素とその派生物は、代替原料、そしてクリーンエネルギー源の両方として化学産業で重要な役割を果たしている」と述べている。 しかし、電機大手のシーメンスによると、政府支出を増やすには時間がかかるだろう。同社はドイツで電解槽に約3300万ドル(約45億円)を費やしていて、これにより大きな経済の構築が促されるはずだ。そうなれば風力や太陽光で生産された水素の価格を低下させ、天然ガスと同等の水準にすることが可能になる。 風力や太陽光で生産した水素は現在、少なくとも1キロ2.5ドル(約340円)だが、今後の進展のためには1キロ0.8~1.6ドル(約110~220円)まで下げる必要がある。 ドイツを拠点とし、2つのグリーン水素のプロジェクトを手掛けるユニパーSE(Uniper SE)のクラウスディーター・マウバッハCEOは「宣言された気候変動の保護目標を達成するには『グリーン電子』と『グリーン分子』が必要だ」と述べ、「(ドイツでは)鉄鋼生産の脱炭素化のため、大規模な水素製造施設が建設される予定だ」と語っている。 風力と太陽光エネルギーの費用は下がっていて、グリーン水素はこれまでに増して手が届きやすくなっている。米国のインフレ抑制法は、これをさらに促すことが期待されている。 同法が成功を収めれば、化石燃料依存からの脱却が困難なセクターでも脱炭素化が大きく進むだろう。それにより、米国の経済は2030年までに二酸化炭素の排出量を約40%削減できるはずだ。
グリーン水素の生産実現 米国のインフレ抑制法が促す(Forbes JAPAN) - Yahoo!ニュース
グリーン水素の生産実現 米国のインフレ抑制法が促す(Forbes JAPAN) - Yahoo!ニュース
米国ではインフレ抑制法が成立し、21世紀のエネルギー・気候変動プロジェクトに約3690億ドル(約50兆5000億円)が投入される。これは、水素を巡る経済や米国内の風力タービンおよび太陽光
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