エアバス、2035年までに「水素燃料電池エンジンの航空機」を開発?脱炭素に向けた歩み
今年のパリ航空ショーではインドLCCインディゴがエアバスに対して、史上最大の発注をしたことで、話題となった。大量受注の一方で、同社はことさら製造機数を追い求めることはせず、将来の脱炭素社会に向けた航空機製造の動きを進めているという。その理由と経緯を追った。
エアバスA320neoシリーズの躍進
コロナ禍で航空会社は厳しい経営状況となる中、エアバスA320neoシリーズは、航空会社の燃料費削減と環境負荷の軽減に貢献した。革新的なエンジン技術と航空機の改良により、燃料消費量を20%以上削減できたという。 同シリーズは、ナローボディ機で燃費効率も良く、ワイドボディ大型機と比べ地上保管された機体は比較的少ないため、優位性が高い。航空需要の回復に伴い、多くの航空会社から注文を受けている。現在は派生形を生み、航続距離延長型のA321XLRの試験飛行も続く。
4人乗り、医療用…特別用途をもつ、エアバスのUAM
エアバスは、パリ航空ショー会場内の展示「パリアーバンモビリティ」にて、都市部の新交通システムの取り組みにCity Airbusと名付けてUAMの研究を報告した。 今年は、バージョンアップしたCity Airbus Next Generationをモデルとともに紹介した。エアバスのUAMの特徴は4人乗りであり、医療用という特別用途もある。また、STマイクロエレクトロニクスとの間で、航空機電化用パワーエレクトロニクス分野での提携を発表した。
エアバスの脱炭素に向けた歩み
エアバスの脱炭素に向けたこれまでの歩みを時系列で並べると次の通りとなる。 2017年、系列メーカーのサフランとともに、エアバスA320用の「電気地上滑走(eTAXI)システム」を開発した。まずは、空港で使用する作業車のグラウンドサービスエクイップメント(GSE)の開発から始動した。 航空機の地上滑走は、プッシュバックはエンジン装備のトーイングカーで行われ、自走はエンジン推力で行われている。これを電動化することで、CO2削減に貢献するものだ。地上では飛行時ほどの推力は必要としないことから実現は早い可能性が高い。 2021年9月には、脱炭素化の野望を強化するために「超高性能翼デモンストレーター」を発表した。セスナ サイテーション VII ビジネス ジェット プラットフォームに画期的な翼技術を統合し、種々の飛行条件で飛行した。 そして、将来の航空機の翼の空気力学と性能を改善および最適化する技術を検証する。翼の形状を変えることにより空気効率が上がり、燃料消費が削減される場合がある。 また、2035年までに就航する可能性のある、世界初のゼロエミッション民間旅客機のいくつかの航空機コンセプトを「ZEROe」の名称でを発表。水素燃料電池や電動化技術の活用など、二酸化炭素排出量を極力削減するための研究を含み、2035年までに商業運航可能なゼロエミッション航空機の実現を目指す。 そのほか航空機の生産プロセスにおいて、省エネルギー・低排出量の施策を推進し、航空機のリサイクルや廃棄物の管理においても環境への配慮を行っている。 さらに、昨年7月には、ファーンボロ航空ショーでエアバスとCFMインターナショナルが先進的な「オープンファンアーキテクチャの飛行試験デモンストレーター」を発表した。プロベラ機は小型機のものと先入観があり、大型のA380に装着された姿は異質に見えた。 デモンストレーターは、他のターボファンエンジンとは異なりケースに囲まれていないため、「開いた」状態になっている。これにより重量が軽減され、ファンブレードを大幅に大きくすることができる。その結果、ファンはエンジンコアを通過するのではなく、エンジンの周囲にはるかに大量の空気を移動させることができるのだ。 その後11月に、初のメガワット級「水素燃料電池エンジン飛行試験デモンストレーター」を準備中だと発表した。
米国LCCジェットブルー、エアバスA321LRの斬新な仕様
地上展示機の中には、米国の代表的なLCCの1つ、ジェットブルーのA321LR(機体番号N4074J)があった。ジェットブルーは、ここ数年で大西洋路線の就航を増やしてきた。 ジェットブルーのA321LRのビジネスクラスは、1-1配列で個室になる「Mint」クラスを設けている。日本ではナローボディ(単通路)機のフルフラット個室シートは出現していないため、斬新に見えた。 最前列の2室はさらに豪華な造りだ。向かい合わせのソファーシートが装備されており、個室の中で2人が食事や打ち合わせをすることが可能だ。3-3のエコノミークラスシートもシートピッチが広い。最大240席を配置できる機材で同社は138席仕様にしている。 58%の占有率のゆったりした機内は、ニューヨーク、ロンドン間などの大西洋線を重要視している証しである。 地元エールフランスは、エアバスA220-300型機(F-HZUZ)を地上展示させた。パリで見るエールフランス塗装は、シンプルでスマートだ。 また、カタール航空はエアバスA350-1000(A7-ANT)を地上展示させた。ここ何年も航空ショー地上展示機の常連だ。カタール航空のビジネスジェット部門であるカタール・エグゼクティブは、導入したばかりのガルフストリームG700とともにエアバスA319ACJを展示させていた。
エアバスA321XLR、ボーイングにはない魅力
エアバスの飛行展示に起用されたのは、試験機のA321XLR(F-WWAB)だった。機体側面後方にScan me if you can(スキャンしてみて)とメッセージを付与した大きなQRコードをまとう。さらには、機体中央部にもto make a positive impact for generation to come join us on an XLR journey(XLRの旅に参加しよう)とメッセージが読める。 エアバスの機体には、最近メッセージが付加されることが増えた。新しいマーケティング手法なのだろうか、前方にはQRコードにも見えるXLRと大きくビルボードが描かれた。 エアバスの最新鋭機は、顧客に引き渡される前のものであり、今後の受注が楽しみな機体だ。ナローボディ機で11時間のフライトができる性能を持った。この航続距離延長型は、ライバルのボーイングにはない機種であり、発注は増えるだろう。 対比するように、会場内にある航空博物館の展示物としてエアバスA380(F-WWDD)が増えていたことが印象に残る。大型機は徐々に過去の遺物になりつつあり、洗練された燃費効率のいい双発のナローボディ機がもてはやされることに一抹の寂しさも感じる。 冒頭でも触れたように、インディゴがエアバスにもたらした500機発注のニュースは衝撃的だった。翌日にはエアインディアが250機を発注し、ボーイングへの発注も含めるとインド勢だけで1000機を超えることとなった。 今回のパリ航空ショーは世界の航空業界の中でインドという国が航空分野で存在感を誇示することができた。と同時にエアバスはこの発表をパフォーマンスで終わらせることなく、引き続き持続可能な経営を行う必要があるだろう。
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