発電所並みの燃料電池バスから「電気のバケツリレー」、トヨタとホンダで実証実験
トヨタの燃料電池バスとホンダの給電機や蓄電池を組み合わせて活用する(クリックして拡大)
トヨタ自動車とホンダは2020年8月31日、可搬型の外部給電機やバッテリーと、燃料電池(FC)バスの給電機能を組み合わせた移動式発電・給電システム「Moving e」を構築し、実証実験を開始すると発表した。実証実験は2020年9月からスタートする。対象地域は商用車向けの水素ステーションがある関東地域となりそうだ。 トヨタ自動車はMoving eの取り組みに合わせて従来型のFCバスから水素タンクの容量を大幅に増やし、発電量454kWh、最高出力18kWに性能を高めた。水素ステーションから片道100km圏内の避難所などに3日間給電し、また水素ステーションに戻るような使い方を想定している。FCVへの水素充填(じゅうてん)は、電気自動車(EV)の充電と比べて短時間で完了するため、電源が必要とされる地域で活動し、水素ステーションで水素を充填した後に短い時間で現地に戻ることも可能だ。 従来の電動車では供給できない大容量の電力を供給できるFCバスと、持ち運べるさまざまなタイプの給電機やバッテリーを組み合わせて大規模な“電気のバケツリレー”を行い、V2L(Vehicle to Load)のニーズや課題を検証する。運んだ電気は、非常時のスマートフォンやPCなどの充電の他、停電中に自宅での生活を継続したり、避難所を運営したりするための電源として分け合う。非常時だけでなく、イベントや屋外での活動などで平時にも使ってもらうことを目指す。 新開発の燃料電池バスは「発電所レベル」 トヨタ自動車は2018年3月に燃料電池バス「SORA」を発売、路線バスとして導入が進められている。Moving e向けに開発した燃料電池バス「CHARGING STATION」は、SORAをベースに高圧水素タンクの本数を増やした。SORAで使用する高圧水素タンク10本に加えて、新開発のタンク9本を床下に追加した。水素貯蔵量はSORAの24kgからほぼ倍増の47kgとなる。新開発の高圧水素タンクは従来よりも小型になったが体積効率が改善している。FCスタックはSORAと共通だ。 高圧水素タンクの追加により、乗車定員は27人で路線バスとしてはかなり少なくなるが、旅客輸送でも使用できるという。また、非常時に車内で仮眠をとるなどの使い方も想定している。 Moving eの取り組みでは、ホンダが持つ大中小の可搬型電源を使用するが、まずは車両からの電力を家庭用電源に変換する外部給電機「Power Exporter 9000」をつなげる。Power Exporter 9000は定格出力が9kVA(9000VA)で、エアコンなどの家電にも電気を供給できる。CHARGING STATIONは移動式の発電機としての用途を重視するため外部給電口は2つに増やしており、Power Exporter 9000も2つ接続できる。そのため、車両としての出力も18kVAだ。 本来は規制で10kVAを超える出力を持つものは発電所扱いとなるが、「トヨタのおかげで例外的に認められた」(本田技術研究所 先進パワーユニット・エネルギー研究所 エグゼクティブチーフエンジニアの岩田和之氏)という。既存の乗用車でも外部給電に対応したモデルが複数あるが、電力供給の大本に発電量の大きな電動車を使用することでV2Lの新たな可能性やニーズを探る。 Power Exporter 9000は、小型のポータブル蓄電機「LiB-AID E500」や、交換式バッテリー「モバイルパワーパック」の充電と給電を行う試作機「Mobile Power Pack Charge & Supply Concept」に電力を供給する。 充電したLiB-AID E500やMobile Power Pack Charge & Supply Conceptは必要な場所に持ち運んで電源として利用する。 電源を屋内に持ち込めることを重視 Moving e全体では、FCバスのCHARGING STATIONが1台、Power Exporter 9000が2台、LiB-AID E500が20台、モバイルパワーパックとMobile Power Pack Charge & Supply Conceptは36セットを使用する。ホンダはガソリンやカセットボンベで作動する発電機をラインアップに持つが、これらは一酸化炭素が多く発生するため屋内では使用できない。屋内に持ち込める蓄電機や給電機の活用を進めることもMoving eの狙いとなる。 ホンダのモバイルパワーパックは、バッテリーを稼働率の低い製品に専用で使うのは“もったいない”という考えの下、汎用(はんよう)性を持たせたバッテリーだ。電動バイクから外したモバイルパワーパックを住宅に持ち込むなど、さまざまな用途で共用する前提で開発した。また、電動バイク本体とバッテリーを分けて販売してユーザーが所有するのは電動バイクの本体のみとし、バッテリーはその都度利用する形にすることで、所有コストを下げる効果もある。 モバイルパワーパックを駆動用バッテリーに使用する電動バイクは既に国内外で市場に出ている。東南アジアではモバイルパワーパックを充電するステーションの実証実験も実施。バッテリーの電力の残量が少なくなったときに、充電済みのバッテリーと使用済みのものを充電ステーションで交換しながら使用するという試みだ。実証実験を実施。充電の待ち時間がない手軽さが好評だとしている。 モバイルパワーパックの充電ステーションは、2020年9月にスタートする大阪府内の実証実験でも導入する。充電ステーションは定置用蓄電池としても機能するため、設置するコンビニエンスストアでは停電時にレジの稼働などを継続する上で役立つとして好意的だという。 Moving eの取り組みは、電動車活用社会推進協議会で トヨタ自動車 FC事業領域 統括部長の濱村芳彦氏と本田技術研究所の岩田氏が意気投合したことで始まった。台風や豪雨、地震など災害で起きる停電が長期化する例が多いことや、働き方の多様化が進む中で、オフィスだけの災害対応では社員を守れなくなることを踏まえ、協業を決めた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/d445119f2f08a228fd96795b26a7c757bb815ab5
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