燃料電池で200km目指す…日本鯨類研究所が開発、長距離自立飛行できる「VTOL」の性能
老朽インフラ点検や広域災害後の調査などで有用性が期待される飛行ロボット(ドローン)。ただ、国内で実用化されているドローンは空撮用などのマルチコプター型がほとんどで、数十分程度しか飛べない短距離タイプが多い。こうした中、日本鯨類研究所(東京都中央区、藤瀬良弘理事長)は、2019年から長距離自律飛行できる垂直離着陸機(VTOL)固定翼無人機「飛鳥」を開発。22年には飛行距離で日本新記録の104キロメートルを達成した。現在は水素燃料電池を搭載し、200キロメートル以上飛べる無人機を目指し、開発を続けている。
日本鯨類研究所は水産庁などから委託を受けて日本近海や北太平洋、南極海などでシロナガスクジラやミンククジラといった鯨類の資源調査を行っている。ドローン開発に乗り出した理由は目視調査を補完する新たな鯨類調査。調査船上から熟練観察員たちが双眼鏡で鯨類を発見、判定する方法では調査できる海域に限度がある。「南極海では調査船が入っていけないエリアが多く、収集データに欠落が生じてしまう」(松岡耕二理事)。ドローンなら洋上を広く飛ぶためこの課題をクリアでき、作業効率も大幅に改善できる。 そうは言っても南極海上空を飛ぶドローンは強風や低温、航行中の調査船の激しい揺れなどの悪条件をクリアする必要があるほか、極地や船体由来の磁気かく乱などの問題がある。「陸上なら全地球測位システム(GPS)と目立つ建物などで位置確認が容易だが、海上だとそもそも目印がない上、船の位置も刻々と変化するため、自律飛行が難しい」(同)。燃料油や排ガスで海洋を汚さぬ配慮から動力源はリチウムイオン電池(LiB)を採用。機体はグラスファイバーなどで極力、軽量化して航続距離を延ばし、上空風速26ノットの強風下でも飛行に問題なしとの性能データを得ている。 機体には直下の海面を撮影する下方向け静止画カメラ2台と、斜め前方向け動画カメラ1台を搭載した。飛行高度を80メートルに設定して鯨種を判定可能な解像度を確保。飛行は調査船船尾に設置した簡易飛行甲板から垂直離発着で行い、調査船上空で水平飛行に切り替えて鯨がいそうなポイントを経由して調査船上空に戻る仕組みだ。 水素燃料電池を搭載した場合、航続距離が約2倍に延びるため現在よりさらに遠い海域まで鯨を探したり、鯨のいそうなポイントを1カ所から2カ所、3カ所と増やして発見効率を上げることが可能になる。24年4月に完成した最新捕鯨母船「関鯨丸」はデッキに4機以上の「飛鳥」を収納できる格納庫を持ち、東西南北同時に飛鳥を飛ばして発見効率を格段に高められる。 水素燃料電池はLiBよりパワーが大きく、強風下でも飛行状態を安定できる効果も見込める。鯨類調査用に登場した飛鳥だが、最近はカツオの群れの捜索や国土地理院の海底火山観測、水産庁や警察庁の警備用など他方面からの引き合いも多い。市場拡大が期待される。
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