パナソニック、楠見CEO「ムダや滞留を撲滅」して目指す専鋭化--2030年CO2排出量実質ゼロへ
パナソニック CEOの楠見雄規氏が5月27日、オンラインで会見を行い、パナソニックグループが目指す今後の方向性について説明した。楠見氏は、2021年4月1日付でCEOに就任しており、就任後、経営方針を示したのは、今回が初めてとなる。 楠見CEOは「パナソニックが今後取り組むべきことは、事業の『専鋭化』である」と前置きし、「今後2年間は、すべての事業において、攻めるべき領域を定め、そこでの競争力を徹底的に高めていく。そのために、『戦略』と『オペレーション力』を両輪として、その強化に取り組んでいく」と述べた。また、「私たちの子ども、孫、その次の世代まで豊かな社会生活を持続するために、パナソニックが最優先で取り組むべきなのは地球環境問題である」と述べ、「2030年までにすべての事業会社で、CO2排出量を実質ゼロにするという目標を新たにコミットする。これは製造業が必達すべき目標である」と宣言した。CEOとして最初にコミットした数値目標が、環境に関わる指標。楠見CEOならではの経営に対する姿勢の表れともいえる。 さらに「なすべきことは、いま一度、経営理念に立ち返り、理想の社会の実現に向けて邁進し、たゆまぬ発展の道を歩むことである。目標数値を達成したからといって満足することなく、常にお客様視点、現場視点で、高い理想に向けて、日々改善を追求するような社員の集団にしていく。2年間、競争力の強化に集中するのはそのためだ。2021年度は、その初年度として、とくにオペレーション力の強化にグループをあげて取り組み、改善のサイクルを加速したい」と語った。 楠見CEOは、「パナソニックが目指すべき姿は、あくなき改善に挑戦しつづけることで、理想の社会の実現をリードする会社になることである」と定義した。 「くらしや社会に貢献するためには、厳しい競争環境のなかでも、圧倒的な競争力を身につけることが不可欠である。そこで大きなポイントになるのが、改善につぐ改善である。そこには2つの取り組みがある。ひとつは、ムダや滞留の徹底的な撲滅により、社会から預かった大切な経営リソースを最大限有効活用することである。1秒1滴のムダに気がつき、それを無くす改善を続ける。もうひとつは、お客様にとっての本質的な価値を起点に、理想の未来を見据えた高い目標を掲げ、その実現に向けて、日々自らの力を磨き上げていくことである。新たな時代をリードする商品を実現したり、その商品の普及を加速するために、圧倒的なコスト力を実現することに努める」とした。 創業者である松下幸之助氏は、1930年代に「従来の半値で、より多くの家庭にラジオを届ける」として、ラジオの原価半減を実現した。 「本来パナソニックには、そうした伝統がある。この考え方を、改めて、すべての事業の現場に徹底し、オペレーション力や商品性能、環境性能など、事業ごとの明確な目標を設けて改善に取り組んでいく。これによって、事業の競争力を高め、それぞれの事業を業界ナンバーワンにしていきたい。こうしたことを突き詰めていけば、自ずと成果はキャッシュという形で生まれてくる。この考え方のもとで、まず2年間は、すべての事業において、攻めるべき領域を定め、そこでの競争力を徹底的に高めていく。市場が極端に縮小する見込みであるのならば、将来の事業棄損が明確な事業を除いては、まずは競争力を高めることに注力する」と述べた。 トヨタに学ぶ日々改善の浸透力 楠見CEOは、これまでBtoB、BtoCを問わずに、さまざまな事業に取り組んできたが、その経験をもと、「競争力強化には、戦略とオペレーション力の2つが両輪である」とする。 戦略とは、どんな顧客をターゲットにするか、事業を構成する要素のうち、どこで優位性を持つのか、どんなビジネスモデルでキャッシュを獲得していくのか、どんなパートナーと組んで事業を伸ばしていくかといった要素で構成される。「事業としての勝ち筋をいかに構築していくかが戦略になる」とする。 オペレーション力とは、製造現場の話だけでなく、開発や企画、サプライチェーン全体までを含めた事業を構成するあらゆる現場において、ムダや滞留を撲滅し、事業のスピードを高め、高効率、高生産性を実現する力を意味するという。 「いかに戦略が優れていても、それを事業として実現する力がなければ、戦略は絵に描いた餅でしかない。モノと情報がよどみなく流れ、変化にも迅速に対応できる卓越したオペレーション力を身につけることが、戦略の優位性とともに重要な要素である」とした上で、「これまでは、事業の転地やビジネスモデルの変革など、新たな優位性の獲得に向けた戦略面での強化に重点を置いてきた。だが、オペレーション力については、すべての事業、機能、業務において、まだまだ向上の余地があると認識している。あくなき改善への挑戦による競争力の強化とは、オペレーション力を徹底的に高め続けることである」と述べた。 その一方で、「規模が大きいが、収益に苦労している事業については、きめ細かくみると改善の余地はまだある。直近まで私が担当していたオートモーティブ事業が、昨年度にようやく黒字化したのは、その証左である。また、一定の利益を出している事業のなかには、それに満足して、改善が止まっている場合もある。日々、改善を続けて、競争力を磨いていない事業は、風土を変え、意識を高めていきたい。オートモーティブ社で3年間、トヨタ自動車と仕事を一緒にしてきて、日々改善することが現場まで浸透しており、この状況そのものが戦略になっていることを理解できた。パナソニックもそれを見習っていかなくてはならない。それが経営理念の実践につながり、収益の向上につながる」と語った。 いまの位置から本来進むべき道へと方向を正していくことが問われている 今回の会見では、パナソニックの経営理念に関して、時間を割いたのが印象的だった。 楠見CEOは、「経営理念として掲げている『社会生活の改善と向上』、『世界文化の進展に寄与するというパナソニックグループ本来の使命をまっとうするためにも、誰にも負けない立派な仕事をして、お客様に選んでいただける力を身につけ、その力を、スピード感を持って磨き続けていくことに徹底して取り組んでいく」と述べた。 ここでは、1932年に、創業者である松下幸之助氏が打ち出した「水道哲学」について触れた。 「創業者は、当時の日本の状況に鑑みて、『生産に次ぐ生産をもって貧乏を克服し、富を増大する』という『水道哲学』を提示した。これは『精神的な安定と物資の無尽蔵な供給が相まって、はじめて人生の幸福が安定する』という『物心一如』の考えに基づいたもので、250年かけて、理想の社会を建設するという遠大な構想につながるものである。この時代から90年を経過したが、社会が進展してきた現在においても、『物心一如』という考え方に基づけば、『水道哲学』は前時代的なものではないと考えている』と語った。 さらに、「現在、先進諸国を中心に、社会はモノで満たされ、不便さは感じないが、人々の精神の安定が得られ、心が豊かになったかといえば、必ずしもそうではない。不安は絶えないばかりか、悩みや孤独感を抱える人も多い。急速に進む環境破壊や天然資源の枯渇を考えれば、子供や孫、次の世代まで豊かな生活を送れるのかというと、ここでも大きな不安が残る。これまでは豊かさを追求する上で、モノを届けることを中心に活動してきたが、結果としては、『理想の社会』に向かう道から少し逸れたところを歩んできてしまったのではないかと考えている。しかし、来た道を戻ることはできない。いまの位置から、本来進むべき道へと方向を正していくことが、いまのパナソニックには問われている。パナソニックの果たすべき使命は、心もモノも豊かな『理想の社会』の実現に向けて、社会課題に正面から向き合い、現在と未来に対する不安の払拭に貢献することである。そのためになにをすべきかを明らかにして、知恵を重ねて、新たな道を切り開くことである。こうした努力を重ねることが、本来のパナソニックらしさであり、松下らしさだと思っている」と述べた。 こうした経営理念をもとにした考え方を示したあと、楠見CEOは、「パナソニックが最優先に取り組むべきは、地球環境問題の解決への貢献である」とした。「地球環境問題は、年々深刻化しており、危機的状況にある。私たちの子どもや孫、その先まで豊かな社会生活を持続するためには、このグローバルでの社会課題は避けては通れない」とする。 パナソニックは、1991年に、世界に先駆けて「松下環境憲章」を制定。2017年には「環境ビジョン2050」を打ち出している。 「パナソニックは、いま改めて、環境問題解決をリードする会社を目指し、より大きく貢献したいと考えている」とし、すべての事業において、商品やサービスを通じて環境負荷軽減を実現する姿勢を示しながら、「お客様の手元に渡ってからも商品を進化させ、より長く使ってもらうことも、資源の有効活用に役立つ。そして、適正な価格でより多くの人に選んでもらえる。商品本来のお役立ちと環境の両面でトップランナーを目指す。実現は簡単ではないが、ここに挑戦するからこそ、競争力を生み出すことができる」と述べた。 パナソニックは、使うエネルギーの削減とそれを超えるエネルギーの創出、活用を進めており、2050年までに、「創るエネルギー」が「使うエネルギー」を上回ることを宣言している。「Scope 3までを責任範囲としており、パナソニックがScope 3で使うエネルギーは、Scope 1とScope 2の約40倍になる。チャレンジングな目標であるが、グループ全体で積極的に取り組む。これにより、グローバル最大の社会課題である気候変動問題の解決に大きな貢献を果たすリーディングカンパニーになりたい」とし、「そこに至るまでのマイルストーンとして、2030年までに、新体制のすべての事業会社で、自社での生産に使うCO2排出量を実質ゼロにするという目標を新たにコミットする」と述べた。 ここでは、省エネへの取り組みの加速、自社拠点における再生可能エネルギーの利活用、再生可能エネルギーの調達に取り組むという。すでに、再生可能エネルギー100%化は、グローバルの5拠点で実現。2022年4月からは、スマートエネルギーシステム事業部草津工場でも、水素燃料電池や太陽光発電、蓄電池を組み合わせて、ピーク時で680kW、年間2.7GWhの再生可能エネルギーを自ら作り、製造工程の使用電力をすべて賄い、RE100化を実現する予定だという。「この発電量は、900世帯の一般住宅の電力使用量にあたる。草津工場がショーケースとなり、実証を重ねながらRE100ソリューション事業として磨き上げていく。同様の拠点を積極的に増やしていく」と述べた。
競争力強化を狙う「現場プロセス」「エナジー」「くらし」の取り組み 会見では、環境問題への貢献を広げつつ、競争力を強化していくための主な事業の取り組みとして、「現場プロセス」、「エナジー」、「くらし」の3点から説明した。 現場プロセスでは、BlueYonderの100%子会社化によって、世界一のサプライチェーンソリューションプロバイダーになることを宣言。パナソニック コネクティッドソリューションズ社が持つデジタルやデータの力を活用し、サプライチェーンを構成する現場のムダや滞留を撲滅し、現場の改善を自律化させる取り組みと、BlueYonderによるサプライチェーン全体のつながりによる最適化により、大きな改善のサイクルを継続的にまわし、サプライチェーン全体を自律的に改善できるソリューションを提供。経営改革と資源の有効活用、働き方改革にも貢献できるとした。ここでは、「オペレーション力強化という観点から、パナソニックの現場でもBlueYonderを先行導入していく」という。 エナジーでは、この領域で中核となるテスラとの円筒形車載電池における戦略的協業について説明。「テスラの急激な需要変動に対応するためのモノづくりのオペレーション力が十分ではなく、これまでは収益改善に注力せざるを得なかった。急激な需要拡大に対して、2021年度は北米工場の生産ラインを増強。オペレーション力を徹底的に磨き、業界をリードする原価力を実現しながら、生産能力の向上を図る」とした。 さらに、新たな円筒形車載電池である「4680」においても業界をリードすると意欲をみせたほか、非車載電池分野では、データセンターの安定稼働に向けて、高い信頼性を武器に貢献していることや、電力の安定供給に貢献する家庭向け蓄電池システムにも取り組むことを示し、「電池の性能や信頼性、原価力を徹底的に磨き、環境問題の解決を図るとともに、社会インフラの発展にも貢献したい」と述べた。 くらしでは、「心も物も豊かな理想の社会」の実現に向けて、世の中に先駆けて価値創出を目指す姿勢を強調した。ここでは、空質および空調事業を、「新たなパナソニックにおいて成長の軸と位置づける事業」とし、ジアイーノやナノイーといった除菌技術だけでなく、ウイルスの抑制に重要な湿度制御技術、高効率熱交換技術を活用するという。「コロナ禍を背景に空質への関心がグローバルで高まるなか、空質技術と空調技術を高度に統合した商品のニーズに応える。アプライアンス社とライフソリューションズ社が別々に確立してきた製品技術を統合し、ひとつの商材やシステムとしてパッケージ化し、健康で快適な空気など、パナソニックらしい新たな価値を創出する。すでに第1弾製品として、温度環境にあわせて最適な湿度の制御が可能な商品を中国で投入した。今後は非住宅領域での大型システムの展開を加速し、ソリューション型事業の拡大を図る」と述べた。 そのほか、中国の家電事業において、コスト力およびスピードを強化してきた実績を、グローバルに展開して競争力を強化すること、配線器具で成功している海外BtoB事業においては培ってきた販路と信頼を足掛かりにビルや店舗向け事業を成長させることを示した。 環境に軸を置きながら競争力を高める 一方、楠見CEOは、これまでの津賀社長時代のパナソニックの取り組みを振り返り、「2011年度、2012年度には連続して大きな赤字を計上し、厳しい状況のなかで、津賀社長体制がスタートした。それ以来、赤字の止血を含む徹底した業績改善、事業の選択と集中、二次電池などの伸ばす領域への積極投資、中国に軸足を置く事業体制の構築など、さまざまな成長戦略に取り組んできた。現在の中期戦略においても、低収益体質からの脱却に向けた取り組みを着実に進捗させている。結果として、コロナ影響がありながらも、調整後営業利益率で5%に近い水準を確保できている」とする一方、「競争力強化を目指してきたが、苦しい環境のなかでは、戦略議論が多くならざるを得なかった。今後は、戦略とオペレーション力が大切であるということを社員に認識してもらいたい。これは延長線上の取り組みであり、強化していく部分である。パナソニックが目指している『専鋭化』とは、それぞれの分野で競争力をつけて、誰よりもお役立ちをすることである。専鋭化の主役は事業会社である」とした。 また、2019年の創業100周年にあわせて津賀社長が掲げた「くらしアップデート」について、「変えていくというわけではないが、これを進化させるとしたらどうなるのかということを考えている。言葉を発信するフェーズではなく、具現化していくフェーズにある。それぞれの事業会社は幅広い事業を行っており、くらしアップデートという言葉で表現できるものもあれば、そうでないものもある。くらしの領域やオートモーティブ領域では、くらしアップデートをどう具現化していくか、という考え方ができるが、くらしという言葉が捉えにくい事業もある」とした。 また、「今後は、環境に正面から向かい合い、それぞれの事業が、環境に軸を置きながら競争力を高めることになる。いままで以上に、未来の社会において貢献をし、人々から信頼を得る会社にしたいと考えている。それを、ひとつの言葉で表現するのには、もう少し時間がほしい」と述べた。 なお、楠見CEOは6月24日に開催予定の定時株主総会および取締役会で代表取締役社長に就任する。また、2022年4月には、パナソニックホールディングスによる持株会社制へと移行し、各事業会社を分社化して完全子会社化する。 楠見CEOは、「外部からは持株会社制と言われるが、私は事業会社制と呼びたい。事業会社の自主責任経営が主役であり、事業会社の傘下にある事業部が、自主責任経営をスピーディーに行っていく体制になる。本社に遠慮するというメンタリティがこれまで働いていたが、そうした制約を取っ払う。松下電器の本来の事業部制とはそういうものである。そこに立ち返って、事業部による自主責任経営を行ってもらう」とした。 また、「今後の具体的な取り組みについては、各事業において検討を深めている段階である。2022年5月頃に予定している新体制での中長期戦略の発信のなかで、詳しく説明する」とした
https://news.yahoo.co.jp/articles/49e7c9233999719338967bd3f918dbfd1ce64864?page=1
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