トヨタは電池をどう冷やす? 「ミライ」分解で見えた風の流れ
「何か、変な模様が付いてますね」――。分解作業を進めていた整備技術者の1人が声を上げた。トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」から取り出したリチウムイオン電池セルを調査していた時だ(図1)。
角型電池セルの外装に模様が付いていた理由はすぐに分かった。電池セルを固定する樹脂製ホルダーの出っ張り部分が強く押し当てられていたために、跡が付いたものだった。樹脂製ホルダーの溝は、電池セルを空冷するためのものである。溝に冷却風を流し、電池セルの温度上昇を抑える。
電池パック内部に冷却風の通り道
ミライは、「レクサスLS」のハイブリッド車(HEV)と同じリチウムイオン電池パックを採用した(図3)。後部座席の背もたれ裏に搭載した電池パックの重さは約45kg。電圧3.7Vで電流容量が4.0Ahの電池セルを直列に42個つなげた電池モジュールを、2階建て構造に配置していた。合計84個のセルから成る電池パックの総容量は1.24kWhで、電流は310.8Vである。
電池パックが後部座席の背もたれ裏にあるのは、スペースの点以外にも理由がある。電池パックの冷却風は、後部座席とリアフェンダーのすき間を通して、車室から取り込まれる。炎天下の真夏でも車室内は人にとって快適な温度に調整されるため、ここから取り込むのが最も冷却効率が高いのだ。電池パックはセルのほかに、BMS(電池管理システム)や電圧センサー、電流センサー、そして冷却風をパック内部に送る冷却ファンなどを備える(図4)。
冷却風はまず、電池セルを並べてモジュールにするトレーの下部に設けた流路に入る。そこから各電池セルの下部から冷却風を流し、側面側に出す(図5)。
電池セルを隙間なく敷き詰める電気自動車(EV)では、水冷/冷媒システムによる電池の冷却が主流である。充電時や負荷の高い走行時に電池の温度が上がりやすく、劣化につながるためだ。ただし、冷却水や冷媒の大がかり流路が必要となり、コストは高くなる。冷却水や冷媒が漏れ出た場合に備えて、周辺部品に防水処理を施す必要もある。
一方のミライは、駆動システムの動作はシリーズ式HEVに近く、EVほど大容量の電池を必要としない。このため、水冷式を採用する必要はなく、空冷式のHEV用電池を流用できた。
“第2”のリチウムイオン電池を発見
実はミライには、レクサスLSから流用した電池のほかに、リチウムイオン電池をもう1つ搭載している。こちらはトヨタが新規に開発したものだ。駆動用電池に寄り添うように、後部座席の背もたれと荷室の間に配置していた。
この電池は、高度運転支援システム「Advanced Drive(アドバンストドライブ)」(以下、AD)のバックアップ電源である(図6)。メイン電源である鉛蓄電池が失陥した際に働くものだ。具体的には、センサーやECU(電子制御ユニット)、電動パワーステアリング(EPS)、ブレーキシステムなどに電力を供給する。
「レベル3」の自動運転機能を搭載したホンダ「レジェンド」もバックアップ電源を搭載するが、こちらは鉛蓄電池である。鉛蓄電池に比べて高コストなリチウムイオン電池をトヨタが採用したのには、いくつかの理由がある。
まず、小型であること。後部座席と荷室の間という限られたスペースに配置するため、できるだけ体積を抑えたかった。また、性能面でも、鉛蓄電池に比べてリチウムイオン電池は広い範囲の充電量(SoC)を使える。AD用のセンサーやECUなどは消費電力が大きく、大容量の電池が必要と判断したようだ。
ミライから取り外したバックアップ電源用のリチウムイオン電池は、重さが約3.5kgだった(図7)。内部には、駆動用電池と同じセルが4個直列に搭載されていた。
冗長電源モジュールで電源制御
バックアップ用のリチウムイオン電池の制御は、荷室内の左側に搭載した「冗長電源モジュール」が担う(図8)。具体的な機能は、(1)メインの電源とサブの冗長電源の系統を遮断すること、(2)遮断した後に冗長電源であるリチウムイオン電池を制御すること――の2つである。
平常時はメインとサブの系統はつながっており、メインの電源系が失陥した際、瞬時に遮断して冗長電源系を守る。例えばメインの電源系が短絡(ショート)したときに遮断できないと、メインと一緒に冗長系も失陥してしまう。これではバックアップの役割を果たせない。遮断した後は、リチウムイオン電池制御によって、センサーやECUなどに電力を供給する。
冗長電源モジュールを開発したのはデンソーテンである。パンク修理キットの下という限られたスペースに配置するため、遮断と電池制御という2つの機能を1つのモジュール内に統合した。
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