最新の技術開発・利用状況を紹介―製造、利用分野の開発が進展
低炭素水素等」の活用を進めるための法律・水素社会推進法が2024年に施行され、低炭素等の価格差に着目した支援が25年9月にスタートした。同制度により、低炭素水素の製造事業をバックアップする。国内では、水素パイプランの検討や液化水素用ターミナルの建設などが進みつつある。こうしたインフラ整備状況、水素ステーション用設備の水素ディスペンサーの開発、ボイラーや試験焼成炉の水素活用事例、水素混焼ボイラーなど多岐にわたる分野で、水素活用の最新情報を紹介する。
○廣田大輔水素・アンモニア課長に聞く―50年に向け市場の裾野拡大―火力発電に加え燃料転換も
世界の水素需要量(アンモニアを含む)は、産業、モビリティー、発電などの用途を中心に増加が見込まれており、2022年の9500万㌧から50年には4億3千万㌧に拡大することが予想される(国際エネルギー機関の見通し)。日本国内では、23年に改定された「水素基本戦略」で、30年に300万㌧、40年に1200万㌧、50年に2千万㌧の水素導入目標(アンモニアを含む)を掲げている。特に水素やアンモニア需要が期待されている分野は、鉄鋼メーカーの水素還元製鉄、化学メーカーの自家発電や工業炉の燃料転換、定置用燃料電池、燃料電池自動車(FCV)、船舶、火力発電などだ。国内での水素需要の開発状況と政策面での事業者支援などについて、資源エネルギー庁の廣田大輔水素・アンモニア課長に聞いた。
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政府は、今後10年間で、水素・アンモニアの需要拡大支援、再生可能エネルギー等の新技術の研究開発などの非化石エネルギーの推進に対して約6兆~8兆円を支援する予定だ。政府は、これまでにも水素のサプライチェーン開発などを支援してきたが、現在、支援の中心はどういった技術になるのか。また、どういう分野の開発が必要とされているのか。
廣田課長は「2021年から最長10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援するグリーンイノベーション(GI)基金を活用した支援が進んでいる。GI基金では、水素等を製造する分野(水電解装置など)、輸送する分野(液化水素運搬船など)、使用する分野(発電用タービンなど)の研究開発・実証を支援している」と話す。
さらに24年に水素社会推進法が成立したことを受け「低炭素水素等の価格差に着目した支援」が開始し、9月末には水素供給から利用までの商用化を目指す企業の事業計画の最初の認定が行われ、支援制度が実質的にスタートした。
「GI基金で先進的な研究開発支援を長期的に行うとともに、30年供給開始を目指すファーストムーバー向けの商用化事業を『低炭素水素等の価格差に着目した支援』で支えることになる」と説明する。
水素社会推進法は、カーボンニュートラルに向けてGX(グリーントランスフォーメーション)を推進するため、「低炭素水素等」の活用を進める目的の法律。国が前面に立ち、計画認定を受けた事業者に対して支援を行い、将来の自立に向けた取り組みを促す内容となっている。ここで支援対象とする「低炭素水素等」には、水素だけでなくアンモニア、合成メタン(e―methane)、合成燃料(e―fuel)を含む。
いずれも脱炭素に欠かせないエネルギーだが、使い分けや住み分けはどうなっていくのか。「アンモニアは化学製品の原料や、石炭と燃焼速度が近いので石炭火力の混焼用燃料にも適している。低炭素の水素と二酸化炭素(CO2)を原料に製造されるe―メタンは都市ガスの代替燃料としての利用が期待されている。e―fuelはガソリン、軽油などと性状が似ており、航空機、船舶、自動車の燃料としての利用が期待され、既存のインフラもそのまま活用できるメリットがある。一方でハード・トゥ・アベイト分野(削減が難しい)であり、電化などの転換が困難な業種ではアンモニアの他に水素の出番になる。製鉄の水素還元などのほか、天然ガスと燃焼速度が近いことから水素は天然ガス火力発電の代替燃料に適している。この他、広く産業用ボイラーでも灯油、天然ガスなどを使用する工場などだ」。
国内のCO2総排出量のうち製造業の占める比率は36%。その業種別で最も比率が高いのは鉄鋼業だ。製造業の中で35%を占める。鉄鋼業で高炉のCO2排出量を抑制できれば、脱炭素への貢献度も大きい。「鉄鋼業では水素還元にも取り組んでおり、日本製鉄などは試験炉を使って着々と実証を進めている。業界全体で高炉のCO2削減が進めば、脱炭素のインパクトも大きい」。
◇市場性大きい水素による燃料転換
製鉄の水素還元や火力発電のガスタービンでの使用については、すでにGI基金を活用した研究開発・実証などが進められている。これら以外の分野でも産業用のボイラー用燃料として使用する動きが出ている。「多くのメーカーが、自家発電用ボイラーや製造工程で使用する蒸気ボイラーなどの燃料を石炭、LPガスなどから水素・アンモニアに転換する必要があり、ボイラー用燃料の市場も期待できるのではないか」。
10月にはグリーン水素をボイラー燃料に使用する実証がスタートした。サントリーホールディングスは、天然水南アルプス白州工場(山梨県北杜市)で使用するボイラー用燃料の一部を水素に転換している。水電解装置により製造した水素をパイプラインで天然水工場まで供給している。
◇豊田通商、レゾナックの2案件を採択
経済産業省は、30年以降の水素本格導入に向けて、水素サプライチェーンを担う事業を計画する企業を支援する制度「低炭素水素等の価格差に着目した支援」の申請受け付けを24年11月に開始。25年4月から申請のあった案件の審査を進めている。経産省は9月30日、複数の公募案件の中から、豊田通商のグリーン水素案件、レゾナックの水素・アンモニア案件の2件の計画をまず認定したと発表した。
豊田通商の案件は、陸上風力発電で作った電気を豊田通商等が出資する製造SPC(特別目的会社)が調達、愛知製鋼の知多工場(愛知県東海市)の電解装置で水素を製造する計画。製造した水素は愛知製鋼が特殊鋼加工工程の加熱炉で使用する。愛知製鋼は9月30日のプレス発表で、加熱炉で水素ガス燃焼を行うことで、知多工場において年間CO2排出量を約1万㌧削減できる見込みとしている。
レゾナックの案件は、レゾナックが廃プラスチックと廃衣料品をガス化し、得られた水素を原料にして低炭素のアンモニアを製造する計画。レゾナックは、アンモニアを原料に繊維原料であるアクリロニトリルを製造・販売し、資源循環を目指す。
廣田課長は「豊田通商の案件は、グリーン電力を使い、トヨタ自動車・千代田化工製品の水電解装置で水素を製造し、特殊鋼の製造に活用するというもの。レゾナックの案件は、廃材料(衣料など)からアンモニアを作り、最終的にクリーンな衣類販売につなげる技術。2案件とも、日本メーカーの優れた技術を活用したもので、次のビジネスにつなげていってもらいたい」と話す。今後も、経産省は、継続的に多業種の水素製造や利用事業の支援を行うことで、国内製造や海外から調達する水素・アンモニアの需要拡大を図る。
○逆風下でも着実な進展―需要創出の重要性の認識共有/水素閣僚会議
経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は9月、大阪市内のホテルで第7回水素閣僚会議を開催し、30の国・地域が参加した。大阪・関西万博で公開されていた、水素や合成燃料の社会実装に向けた日本の先進的な取り組みや技術力を披露するため大阪で開催した。国際エネルギー機関(IEA)が水素の世界動向を分析したレポートの第5版(グローバルハイドロジェンレビュー2025)を公表したほか、各国が水素政策の進ちょくなどを報告。コスト高などの状況の中でも着実に水素利活用の動きが進展していることを確認し、水素の「需要創出」を促す取り組みの重要性について認識を共有した。
会議冒頭のあいさつで武藤容治経済産業相(当時)は、「足元では政策の不透明さやインフレによるコストの増加など、水素への投資に逆風が吹いているが、脱炭素に向けた真剣な投資は着実に進展し、投資額は中長期的に拡大している。われわれは国際社会で連携し、カーボンニュートラル実現の鍵となる水素・アンモニアの社会実装につなげていかなければならない。日本では水素社会推進法を基に、10年間で3兆円規模の価格差に注目した支援を行う。水素・アンモニアの需要創出をリードし、大規模かつ強じんなサプライチェーンを構築していく」と語った。
また、燃料アンモニア国際会議を水素閣僚会議に統合し、アンモニアも含めて一体的に議論を進める方針であることも説明した。
続いてIEAが最新版のグローバルハイドロジェンレビューについて発表した。低炭素水素の生産量は30年までに3700万㌧に至る見込みで、そのうち稼働中または最終投資判断(FID)に達したプロジェクトは前年比で5倍の420万㌧まで拡大した。逆風の中でも着実に進んでいるものの、一層の加速が必要であることを指摘。水素の需要創出につながる効果的な政策が導入された場合、さらに年間600万㌧の低炭素水素生産プロジェクトが30年までに運開するポテンシャルがあるとして、需要創出を後押しする政策の展開の重要性を指摘した。
参加国・地域は、需要創出の重要性についての認識を共有し、需要創出に向けて協力して取り組むことを盛り込んだ議長総括を発表した。
具体的には、国際水素サプライチェーンの構築や需要源の裾野の拡大に協力して取り組むことで認識を一致。水素利用の拡大を図り、取引規模を拡大させていくことで供給コストの低減、さらなる需要創出につなげる。そのためには各国が、政策的な支援と規制の一体的な整備▽発電、産業、モビリティなど温室効果ガス排出削減が困難な分野での水素利用拡大▽インフラ整備、安全性の確保▽規制、規格、標準などの国際的な協調▽イノベーションの推進――に取り組むことが重要との認識を共有した。
ランチの際は水素コンロで調理した料理やUCC上島珈琲による水素焙煎コーヒーを提供。会場では、川崎重工業が開発中の水素エンジンバイクを展示したほか、パナソニックが新街区「HARUMIFLAG」の模型を展示し、同街区内に設置した純水素型燃料電池を紹介した。
会議終了後、参加者は、岩谷産業が開発した燃料電池船「まほろば」に乗船して万博会場に移動。未来の都市パビリオンで水素関連の技術の展示を視察した。
●川崎で実証用基地の着工、実装フェーズでは供給拠点に/JSE
・大型タンクなど設置
水素社会の実現に向けて、液化水素(LH2)を海外から調達する国際LH2サプライチェーンの商用化に向けた取り組みが進められている。
日本水素エネルギー(JSE=川崎重工業、岩谷産業、三菱化工機、荏原製作所など8社による出資企業)は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション(GI)基金事業に採択され、幹事会社として国際LH2サプライチェーンの商用化に向けた実証に取り組む。安全性や経済性など、商用化に求められる要件を2030年度までに確認する。JSEは今年5月、JFEスチール東日本製鉄所京浜地区(川崎市川崎区扇島)の高炉跡地に、世界初となる商用規模の国際LH2ターミナル(国内基地)を建設する工事を開始した。
実証は当初、豪州で液化した水素を日本に輸送することを計画していたが、豪州での出荷基地の建設に関する許認可取得に時間がかかり、GI基金実証のスケジュールに合わないことが見込まれたため、国内で一連の商用化実証を完遂する計画に変更した。そのため出荷・受入の両機能を持つ国内基地を建設する。
世界初となる貯蔵量5万立方メートルの平底円筒形大型LH2貯蔵タンク(外槽直径約60メートル×高さ約45メートル)を設置する予定で、川崎重工が製作を開始した。このほか、荷役設備、水素液化設備、水素送ガス設備、液化水素ローリー出荷設備などを整備する。商用規模のLH2の荷揚げ・荷下ろし実証を行うためのLH2運搬船(タンク3基で4万立方メートル搭載)も建造する。
国内基地の建設は28年度までに完了させる。29年度に試運転を行い、30年度に本格実証を行う計画だ。
LH2サプライチェーンの商用化実証を行う意義についてJSEの角田俊也プロジェクト本部長は「目指しているのは50年前のLNGの立ち上げ部分。商用規模のLH2サプライチェーンが技術的、経済的に成立し、既存燃料と同じように水素を調達できて、活用できることを示すことが、水素社会の実現に向けた推進力となる。需要側の意識の変化にもつながる。近年は水素の導入についての相談が多く寄せられるようになった」と語る。
・初の高圧水素PLも
国内での実証完遂に変更したことに伴い、川崎臨海部から国内基地に実証用の水素を供給するための高圧水素パイプライン(PL=全長数キロメートル×最高使用圧力7~8メガパスカル)も整備する。基本設計(FEED)はJFEエンジニアリングが手掛ける。実証完遂後の30年度以降の社会実装フェーズでは逆に、国内基地から川崎臨海部周辺への水素供給に活用する。
高圧水素PLの整備について角田プロジェクト本部長は「国内初の高圧水素PLとなるが、天然ガスの高圧PLやこれまでの水素PLの技術を生かして整備していきたい。FEEDを通じて材料の選定などを行う。川崎臨海部には多くのガス火力発電所があるが、水素が発電用燃料として大規模利用されることで、水素社会の実現を加速させていくことになる。そのため高圧水素PLは川崎臨海部にマッチするもの。(高圧供給を必要とする)ガス火力発電所などに供給することを見据えたPLの仕様を検討する」と説明する。
JSEは、実証完遂後の30年度以降の実装フェーズで、LH2の受け入れ・国内供給の拠点として国内基地を活用する計画。それを見据えた取り組みも始めている。
JSEは9月、関西電力、豪州エネルギー大手のウッドサイド・エナジーと、日豪間でのLH2サプライチェーン構築に向けた協業に関する覚書を締結した。豪州で天然ガスから製造した水素を液化して日本に海上輸送することを目指し、実現に向けた協議を行う。JSEは川崎エリアで、関電は姫路でLH2を受け入れる方針だ。
輸送量や水素の用途などについては今後検討していく。製造過程で発生する二酸化炭素(CO2)を回収・貯留するほか、必要に応じてカーボンクレジットを用いてクリーン水素として利用可能とすることも目指す。
JSEはもともと川崎重工の100%子会社だったが、岩谷産業が出資して2社の共同出資会社となった。今年8月には第三者割当増資を実施し、新たに三菱化工機、荏原製作所、大林組、東京センチュリー、日本政策投資銀行、みずほ銀行の6社からの出資を得た。LH2サプライチェーン構築に向けた賛同企業を増やし、社会実装に向けた取り組みを加速させる。
角田プロジェクト本部長は「日本が世界に先駆けて国際LH2サプライチェーンの商用化実証に取り組む意義は大きい。エネルギーセキュリティーの観点においても重要だ。世界に貢献できる技術でもあるので、実証の成功に向けて全力で取り組んでいきたい」と意気込みを語った。
●都内へ高圧水素導管の検討、2年でルートや工法を選定/東京ガス
川崎市に液化水素(LH2)の受入基地が建設されるのを踏まえ、東京都は基地から都内に大規模な水素供給を実現するための方法について検討を進めている。
都は2023年6月、川崎市、大田区と水素の利活用拡大に向けて連携協力する協定を締結。パイプライン(PL)を含めた水素供給体制の構築についても協力することで合意した。さらに昨年、官民連携の「東京におけるパイプラインを含めた水素供給体制検討協議会」を立ち上げ、多摩川を挟んで川崎市と隣接する羽田空港臨海エリアでの水素の需要量や供給体制について検討を始めた。同協議会には東京ガスや東京ガスネットワーク(TGNW)、川崎重工業、岩谷産業、ENEOS、JFEエンジニアリング、JERAなどのほか、経済産業省、環境省、川崎市、東京都大田区などが参加している。
都は昨年度、同協議会に二つの分科会を設け、羽田空港臨海部での水素需要量や水素の供給方法についての検討を行った。今年度は、川崎臨海部から都内に大規模な水素供給を行うための高圧水素PL構築に向けた実現可能性調査(FS)を行う事業者を公募し、東京ガスを採択した。同社は、川崎市臨海部から羽田空港周辺、大田区、品川区、港区を縦断し、千代田区に至るまでの総延長約25キロメートルの高圧水素PLのルートや施工方法などを検討し、実現可能性を探る。
同社は既存インフラを有効活用できるe―メタンの導入に向けて取り組んでいるが、高圧水素PLのFSを手掛ける狙いについて、同社地域共創カンパニー東京支社東京カーボンニュートラル共創グループの福地文彦課長は「当社やTGNWが持つ知見を生かした検討を行うことで都の政策に貢献できると思い、応募した。当社はカーボンニュートラル社会の実現に向けてさまざまな取り組みを進め、社会実装に向けた検討を行っている。複数の選択肢を確保しながらお客さまのニーズを踏まえ、それぞれのエリア特性に応じた脱炭素の手段を提供できるようにしていきたい」と語る。
実施期間は26年度末までの2年間。今年度は、検討の前提となる技術的・制度的な条件を整理する。想定需要量や時間当たりの想定流量、現行での適用法規は何か、どういう課題があるかなどを洗い出す。26年度は具体的なPLの検討を行う。口径や圧力、ルート、施工方法、減圧ステーション(ST)の位置などを検討する。想定ルートを五つの水素需要エリアに分け、エリアごとに減圧STを配置する計画。地下埋設物調査を行い、施工性や経済性、工期、将来の再開発計画、維持管理性などを考慮して敷設ルートや工法を選定する。
同社は、東京2020オリンピック・パラリンピック選手村跡地の新街区「HARUMIFLAG(晴海フラッグ)」(東京都中央区晴海)で、国内では初めてガス事業法を適用した水素の導管供給を開始した。全長約1キロメートルの水素導管を整備し、街区内の水素ステーションから5カ所の純水素型燃料電池に低圧の水素を導管供給している。
「低圧の水素導管供給と比べ、高圧水素PLでは水素脆化(金属の結晶構造の隙間に水素が入り込み、劣化を引き起こす現象)などに注意しなければならない。安全性が確保される材料や仕様を検討していく」(福地課長)
都の事業のほかにも新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究支援事業やグリーンイノベーション(GI)基金事業でも高圧水素PLについての検討が行われている。これらの情報も収集しながら検討を進める。
福地課長は「当社とTGNWが培ってきた知見を最大限に生かし、地に足の付いた検討を行う。(水素の供給をはじめ)エネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの推進に貢献するソリューションの提供を通じ、グループスローガンの『未来をつむぐエネルギー』を実現していきたい」と語った。
●内陸部での需要に対応、供給拠点の形成へ官民連携/滋賀県
内陸部での水素需要を見据え、拠点形成に向けた検討も始まっている。滋賀県は今年5月、県内の水素拠点形成に向けた検討を行うため、官民連携の「しが水素拠点形成コンソーシアム」を設立した。6月2日にキックオフイベントとして米原市役所のコンベンションホールで設立会合・セミナーを開催。会場とオンラインをあわせて約180人が参加した。
内陸工業県の産業分野の脱炭素化に向けて、電化が難しい熱利用などで水素の利用を見据える。従来の化石燃料の代替としての水素需要ポテンシャルを年間約20万トンと試算。交通の要衝という同県の特徴を踏まえ、この需要を賄うための供給体制の構築に向けた検討を進める。
ヤンマーエネルギーシステム、SCREENホールディングス、JR西日本、千代田化工建設、パナソニック、三菱化工機など9社と、米原市、彦根市、野洲市など5市が会員として参加。愛知、三重、福井、大阪をはじめとした近隣の府県などがオブザーバーとして加わっている。
臨海部の水素プロジェクトとの連携も見据え、県内需要家と供給側をつなぐ方法を検討するとともに、近畿・東海・北陸の結節点である米原エリアでの水素供給拠点の形成に向けた実現可能性を探る。
セミナーでは県の担当者が、内陸への水素の輸送手段として、既存設備を利用して大量輸送が可能で、現行法規の適用にも大きな課題がない鉄道輸送の実現性が高いと説明。周辺港湾との位置関係や鉄道貨物流動、周辺需要ポテンシャルも見込み、米原エリアは水素輸送の拠点としての優位性が高いと紹介した。周辺港湾から水素を鉄道輸送し、米原エリアに1次受入ハブを形成することを想定。1次受入ハブから県内の工業団地などの2次需要ハブに供給することを見据える。
滋賀県は今後、具体的なプロジェクトの組成に向けてコンソーシアムと連携して取り組む方針だ。
〇販売好調が継続/ハイサーブ、遠隔監視と予兆監視が強み-大阪ガスリキッド
大阪ガスリキッドが工業用需要家向けに製造・販売するオンサイト型水素製造装置「HYSERVE(ハイサーブ)」は販売好調が継続している。昨年度は電子部品関連メーカーからの受注が目立っていたが、今年度は熱処理加工やガラス製造など幅広い分野の企業に納入先や引合先が広がってきている。
ハイサーブは都市ガスやLPG、バイオガスなどを原料に、顧客の敷地に設置するオンサイト型で純度99・999%以上の高純度水素を製造できるのが特徴。水素製造能力別に毎時30立方メートル、毎時100立方メートル、毎時300立方メートルの3タイプがある。
最大能力の300Xはモデルチェンジにより、従来機よりも設置面積を4割縮小するコンパクト化とコストダウンを実現したのが特徴だ。300Xだけでなく全てのタイプで満遍なく引き合いがあるという。
同社の杉田雅紀水素ソリューション部長は「ハイサーブは『水素供給を止めない』をモットーに販売開始から20年以上、安定供給に注力している。遠隔で24時間常時監視を行う遠隔監視システムと人工知能(AI)を使った故障予兆監視システムとを組み合わせた保守契約がお客さまに受け入れられた結果」と販売好調の理由を分析する。
その保守体制により、故障が発生する前に予兆のある部品を交換することで、顧客が最も避けたい突発停止を防ぐ。エンドユーザーだけでなく、販売代理店(ガスディーラー)にも、ハイサーブの安定供給性の高さに基づく「安心・手間いらず」の周知が確実に広がっており、納入後のトラブルを回避したいガスディーラーがエンドユーザーにハイサーブを勧めるケースも増加している。
「お客さまにハイサーブを保守契約期間である10年間使っていただき、導入コストとランニングコストを含めて、総合的にハイサーブを選んでよかったと思ってもらえるとうれしい」(杉田水素ソリューション部長)
新規顧客への導入だけでなく、実際に使ってメリットを感じた顧客が水素製造装置を増設する際や設備更新する際に、再びハイサーブを選択するリピート需要も順調に増加しているという。
同社は迅速な対応を図るため、全国規模でメンテナンス体制の強化を推進、メンテナンスや万一の故障発生時の一次対応をする「メンテファミリー」と呼ぶ協力会社を増やしている。
コージェネや配管設備業者、機器メーカーのメンテ部門などに、オンサイト型の水素製造装置の仕組みや故障対応、定期整備などの方法を説明してメンテファミリーに加わってもらうとともに徐々に任せる作業の高度化を推進、メンテナンス体制の強化を図っている。その結果、技術的な提案営業などに重点を置くことが可能になったのも販売好調の要因の一つだ。今後は夜間・休日対応もメンテファミリーに依頼する予定もある。
将来的に、グリーン水素を求める顧客が増加した場合の対応として、バイオガスやe-methane(e-メタン)などをハイサーブの原料として活用するほか、水電解水素製造装置販売の検討も始めている。
ハイサーブに加えて、水電解水素製造装置を取り扱うことで、水素を必要とする顧客の要望にワンストップサービスで対応できることを目指す。
〇韓国での販売が好調/北米、欧州への販路拡大も-タツノ
タツノの水素ディスペンサー「ハイドロジェンNX」は、ノズルなど多くの部品に同社製を採用しており、高い信頼性に加え、万一トラブルが発生した際にも補修部品を迅速に供給できるなど、多くのメリットがある。
韓国では、同社100%子会社の現地法人「韓国タツノ」(KTC)で生産したハイドロジェンNXをHYiSONE(ハイスワン)が運営する水素ステーションに3台納入済みだ。韓国仕様のハイドロジェンNXは、ディスペンサーの心臓部である流量計や緊急離脱カップリング、ノズルを日本で生産してKTCに送り、韓国内で調達する部品と組み合わせて製品化している。
ハイスワンの水素ステーションは乗用燃料電池車(FCV)にも充てん可能だが、向かいにFCVの路線バスを数十台保有するバス会社の車庫があり、主に路線バス用に建設された。充てん圧力は70メガパスカル。コンプレッサーや高圧蓄圧器など後方設備が大型のため、FCVの路線バスへの充てんでも10分程度で完了する。
韓国は官民が一体となって水素利用を積極的に推進している。その一環として路線バスを中心にFCVの導入が計画されており、今後も大型水素ステーションの建設が見込める。タツノでは、韓国市場で年間10台程度の水素ディスペンサー販売を見込んでいる。
今年中にハイスワンとは別の企業が建設する水素ステーションに2台、来年には再びハイスワンの水素ステーションに3台の納入が決まっている。ほかにも多くの引き合いがあるという。
タツノはノズルなどを大口径化し、一つのノズルで従来の約5倍の速度での超高速充てんが可能な「ハイフロー(HF)方式」の水素ディスペンサーを北米向けに開発済みだ。これを使えば大型FCトラックに水素80㌔㌘を約10分で充てんが完了するが、HF充てんに対応した車両がまだ実用化されていない。
同社エネルギーエンジニアリング部の田中智久次長(カーボンニュートラル・水素グループリーダー)は「現在、HF用ノズルとノーマルフロー(NF)・ミドルフロー(MF)兼用ノズルの2本を装着したディスペンサーを開発中だ。来年にはHF対応の車両が発売される可能性があり、このディスペンサーならNF・MF兼用ノズルで乗用車やバス、HF用ノズルは大型トラックと幅広く対応できる」と話す。
米国では、環境対応に消極的なトランプ政権によって各種補助金が停止されており、同社は米国の状況を注視している。ただ、以前から環境対策に積極的なカリフォルニア州では、トヨタ自動車製「MIRAI」や韓国ヒョンデ製「NEXO」(ネッソ)など、乗用FCVが合計2万数千台も走行している。
カリフォルニア州でHF対応の大型FCトラックが発売されれば普及が見込める。しかし、普及初期は、大型FCトラックの充てんだけでは水素ステーションの経営が成り立ちにくい。既存の乗用FCVと大型FCトラックの両方に1台で充てん可能なタツノ製水素ディスペンサーを設置すれば、水素ステーションも安定的な収益が期待できることをアピールし、当面は同州を中心に開発中の水素ディスペンサーの拡販を図る。
欧州(EU)におけるFCVの普及状況も一進一退だという。EU指令には水素活用の方針が明記されているものの、具体的な対策はEU各国の個別の取り組みに委ねられており、FCV普及は足踏み状態だ。
EU市場向けには水素ディスペンサーの完成品でなく、ノズルや流量計などの部品を現地の水素ディスペンサーメーカーに販売する方向で検討している。EU域内では国ごとに安全基準などが異なるため、ディスペンサーの製造は現地のメーカに任せ、部品販売に向けて部品単位の認証を進める。
〇用途拡大に注力/船舶用や航空機用などへ
トキコシステムソリューションズ-トキコシステムソリューションズは、親会社の岩谷産業とともに船舶用など水素ディスペンサーの用途拡大に注力している。
船舶用は大阪・関西万博で旅客運行用に使用された水素燃料電池船「まほろば」の水素供給用ディスペンサーを納入したほか、船に対する水素充てんの基準の策定や許可取得をサポートした。
船舶への水素充てんは(1)車両より量が多い(2)タンクとのデータ通信がない(3)潮位の変化や波浪などの影響で船体が上下動する(4)ディスペンサーから充てん口までの距離が長い――など条件が異なる。ディスペンサー本体は車両用とほぼ変わらないが、ハード面は可動式アームと長尺のホースを採用したほか、ソフト面は安全に充てんできる条件・手順を開発した。
それで得た知見を今後、他の船舶用や重機用などに生かす方針だ。船舶用ディスペンサーはジャパンハイドロが開発した水素混焼エンジンを搭載したタグボート「天歐」への水素充てん用にも採用されている。
さらに国内航空機メーカーが燃料電池を搭載した機体の開発を進めており、それに合わせてトキコシステムソリューションズも今後、航空機ディスペンサーの開発を視野に入れている。
まだ一般的には認知度がそれほど高くない水素ディスペンサーのPRにも力を入れている。大阪・関西万博で9月22日~25日に開催された地球の未来と生物多様性ウィーク「水素パーク!!」に最新の水素ディスペンサー「NEORISE」(ネオライズ)を展示。来場者は水素ガス模擬充てんを体験した。
同社開発本部副本部長兼新製品開発部部長の山本竜平執行役員は「色んな方にNEORISEを触ってもらい水素社会の到来を実感してもらえた。NEORISEは東京都江東区に今年4月1日に営業を開始した『岩谷コスモ水素ステーション有明自動車営業所』にも採用された。バス営業所内での水素ステーションの整備・運営は国内初だ」と話す。
同社は海外にも販路を広げている。水素ステーションの新規建設が相次ぐ韓国には合計80台以上の水素ディスペンサーを出荷している。日本での安定稼働の実績が韓国で評価され、同社製ディスペンサーの認知度も向上している。
一方、米国ではカリフォルニア州を中心に岩谷産業が運営している水素ステーションへの出荷も始まった。既設の水素ディスペンサーの更新に合わせ海外メーカー製からトキコソリューションズ製に切り替えられている。
現在、同社は液体水素用ディスペンサーの開発に取り組んでいる。海外ではドイツのダイムラートラックが液体水素を燃料とする燃料電池(FC)大型トラックを開発中のほか、日本国内でも三菱ふそうトラック・バスが液体水素を搭載する大型トラックをジャパンモビリティショーに出展するなど関心が高まっている。
液体水素はFCトラックや水素エンジントラックの走行距離を延長するための重要な選択肢の一つとトキコソリューションズは考え、液体水素用ディスペンサーの開発に着手した。液体水素は気体を圧縮したよりも体積が小さくなり、同容量のタンクの場合、走行距離が約1・6倍になる。
しかしマイナス253度以下の極低温の液体水素を計量できる流量計は存在しないため、ディスペンサーの心臓部である流量計を高い断熱性能を含め新規開発中だ。
「国内唯一の液体水素サプライヤーである岩谷産業傘下の当社としては、液体水素用ディスペンサーを開発し、水素エネルギーの利用拡大に貢献したい」と山本竜平執行役員は意気込みを見せた。
【モビリティ―の利用を促進】
○東京港に水素燃料電池船―大阪・関西万博の「レガシー」活用/岩谷産業
岩谷産業は水素・燃料電池の利活用拡大等を目指し、国内初の内燃機関を有さない水素燃料電池船「まほろば」を開発し、大阪・関西万博で旅客運航を実施した。2026年度には東京都と共同で、東京港で旅客運航を行い、万博の「レガシー」として活用する。
まほろばは全長33㍍、幅8㍍、総㌧数は177㌧の双胴船。航行航続距離やコスト、耐久性などの経済性を考慮し、船体にはアルミニウムを採用した。速力は10ノット(約20㌔㍍/時)で、航行距離は約130㌔㍍(10ノット時)。定員は150人。
船体デザインは、幅広いプロダクトデザインの実績を持つデザイナーのTakumiYAMAMOTO氏が担当した。未来に向けて海の上を颯爽と駆け抜ける「神獣」のようなデザインをテーマにしている。
最大の特徴は、燃料電池で発電した電気と、商用電力を充電した「プラグイン電力」によるハイブリッド航行システム。バッテリーと組み合わせて燃料電池が最も効率的に稼働するように制御され、エネルギー消費を最小限に抑えている。さらに、より高効率な運航を実現するため、関西電力や東京海洋大学と協力。水素と電力の充てん・消費実験データを基にしたエネルギーマネジメントの最適化の取組みも行っている。
また本船は、二つの船体を持つ双胴船で、それぞれに独立した推進システムを備えるため、片方のエネルギー源が故障しても船行でき、乗客の安全を最優先に考えた設計となっている。加えて、燃料電池は水素と空気中の酸素のみを使用するため、運航時は二酸化炭素や環境負荷物質を排出しないほか、エンジン駆動による騒音・振動・燃料のにおいがないため、快適性にも優れている。
万博会場では、25年4月13日から運航を開始した。夢洲(大阪市此花区)とユニバーサルシティポートの間を毎週3日、各日4往復し、期間中に多くの旅客を運びながら「動くパビリオン」としての役割を果たした。運航は京阪グループの大阪水上バスが担った。
運航に先立ち、24年には国内初の船舶用水素ステーションを夢洲の南3㌔㍍の位置に建設した。船舶が停泊中に上下左右に揺れても充てんできるように8㍍の充てんホースや専用の充てんアームを設置。充電設備も備え、万博開催期間中はまほろばへの水素充てんと充電を行った。
・東京都と協定締結
10月16日には水素燃料電池船を活用し、共同で実施する事業について東京都と協定を締結した。2026年度からは、東京港で運航することで、多くの人に乗船機会を提供するとともに、水素や水素燃料電池船の有用性のほか、国際物流拠点である東京港の役割等を広く発信していく。
岩谷産業は「東京都との連携協定の締結により、水素をより身近に感じていただき、水素エネルギーをPRする一助に資するものであり、今後も水素エネルギーの普及に向けた取り組みを進めていく」としている。
○GX事業230億円目指す―水素をブルー、グリーンへ/三菱化工機
三菱化工機は2025年5月に25年度~27年度の3カ年にわたる「中期経営計画【進化と変革へ】2・0」を発表した。三菱化工機が定義した戦略的事業領域のうち、特にQuickWin(短期間で成果が見えやすい取り組みを優先する)分野として位置付ける「持続可能な循環型社会推進事業」や「水素を核としたクリーンエネルギー事業」に注力し、今年度より新設した報告セグメントである「GX(グリーントランスフォーメーション)事業」の売上高を27年度までに230億円に拡大する。
小型パッケージタイプでオンサイト型水素製造装置においてトップシェアを誇るのが「HyGeia(ハイジェイア)」。三菱化工機はこの水素製造装置分野で石油精製、化学品製造等の大型で時間当たり千ノルマル立方㍍以上の水素を製造する大規模用途向けのICI式水素製造装置、半導体製造、金属熱処理等の工業用途向けの中型(時間当たり500、千ノルマル立方㍍)水素製造装置M―HyGeia、水素ステーション、工業用途向けなどで時間当たり50~300ノルマル立方㍍の水素製造装置、小型パッケージタイプのHyGeiaシリーズの豊富なラインアップをそろえており、これまでに約200台の納入実績がある。また、最近では、工業用途の他の水素活用分野においても納入基数が増加している。
同装置で製造する水素は都市ガス13Aを原料とした二酸化炭素(CO2)を排出する「グレー水素」だが、より環境性の高い、クリーン水素の製造に力を注ぐ。
同社の川崎製作所(川崎市)では、水素製造装置HyGeia―Aの隣に自社開発のCO2回収装置を設置し、日量6㌧のCO2排出量の10分の1を回収する実証を行っている。HyGeia―Aで製造時に排出されるCO2を回収することで、より環境性の高い「ブルー水素」になる。すでに安定的な回収が確認できており、今後は、装置のスケールアップを進め、ブルー水素化を図る。
さらに再生可能エネルギーで発電した電気で水を電気分解して、「グリーン水素」を製造する水電解水素製造装置の開発も進めている。
19年に高砂熱学工業と共同で、水電解水素製造装置を開発。環境省の実証事業として秋田県能代市に水素製造能力2・5ノルマル立方㍍/時の装置を設置し、風力発電で発電した電気でグリーン水素を製造する実証に参画した。現在、製造能力の大型化に向け、高砂熱学工業と共同開発を進めている。
今年8月には水素の普及および水素社会の実現をより一層推し進めるため、「日本水素エネルギー(東京都港区、JSE)」に出資した。JSEは液化水素のグローバルサプライチェーンに関する、調査・企画・運営および投資等を主目的として設立された企業で、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業として「液化水素サプライチェーンの商用化実証」に取り組んでいる。川崎市扇島に国内で調達した水素を液化・貯蔵し出荷するターミナルを建設。30年以降は海外から液化水素を輸入し、国内の需要家へ供給を開始し、国際液化水素サプライチェーンを稼働させる予定だ。
水素関連事業について、企画管理統括本部副本部長兼GX事業推進室の石川尚宏理事は「水素は、カーボンニュートラルを進めていく上では欠かせないエネルギー。今後は、脱炭素の流れの中で水素の用途開発が広がることが見込まれる。当社は水蒸気改質法による水素製造装置のトップメーカーとして、製品群にCO2回収装置、水電解水素製造装置やバイオガス活用などを加え、脱炭素に資するシステムとしてGX事業の柱にしていきたい」と話す。
○中計で水素を成長戦略に―FCトラック、バスに期待/新コスモス電機
新コスモス電機は2025年度から3カ年間の中期経営計画で、「カーボンニュートラル(水素)市場への取り組み」を成長戦略に位置付けた。(1)燃料電池自動車(FCV)内に設置し、水素の漏えいを検知する「車載用水素ディテクタ」(2)水素ステーションなどに向けた水素検知部・水素炎検知器等(3)家庭用電池式水素警報器――の各事業を推進する。
水素ディテクタは21年3月にトヨタ自動車のFCV乗用車「MIRAI」に採用された。ただ、23年度末の国内のFCV乗用車保有台数は約7700台で、近年は年間増加台数が数百台にとどまる。
そうした中、需要拡大につながると期待されるのがFCトラック、FCバスだ。
現在、東京都が路線バスとして運航しているFCバスに採用されており、採用が拡大する動きも出てきている。
また、三菱ふそうトラック・バスがFCバスの開発を進めているほか、10月24日には日野自動車もFC大型トラックを発売した。
岩見知明営業計画推進部商品企画担当部長は「中国では、乗用車のFCVよりもFCトラックが伸びている。欧州でも同様にFCトラックの先行導入が進んでいるため、国内に加え、海外向け提案にも取り組んでいる」と話す。
水素ステーションは関東、中部、関西、九州を中心に設置が進展し、設置件数は25年6月現在で152カ所となっている。25年度は4カ所のステーションが建設される予定だ。
同社は定置式ガス検知部「PD―12」「KD―12」を水素ステーション向けに提供している。PD―12は千ppm以下の濃度で水素を検知する必要があるディスペンサーの充てん用ホースのカップリング部に採用。KD―12は蓄圧器や圧縮機のパッケージ内やディスペンサー内部に設置されている。
ここ数年、水素ステーションの建設ペースは若干下がっているものの、「今後は、FCトラック、FCバスの増加が水素ステーションの増加につながることを期待したい」と岩見担当部長は話す。
25年5月には、将来、家庭や飲食店での調理器具にも水素が利用されることを見込み、世界初の電池式水素警報器「HL―310」を開発した。濃度4千ppmの水素を室内で検知すると警報するもので、電池駆動で5年間ノーメンテナンスで使用できる。
現在、国内外で実証導入を進めている。国内ではトヨタ自動車下山工場(愛知県みよし市)の社員食堂の厨房内に設置した。この食堂には今年、調理器具として水素グリラーが設置され、水素で調理した料理が提供されている。
海外では、グリーン水素を家庭300戸に供給してコンロなどで使用し、水素の実用性と安全性を実証する英国のプロジェクト向けに提供している。今後、国内外の状況を見ながら市場投入を検討していく。
【モノづくり現場で実用加速へ】
●タイヤ製造でグリーン化拡大水電解装置設置でCO2削減/住友ゴム工業
住友ゴム工業は今年4月、乗用車やトラックなどのタイヤを生産する白河工場(福島県白河市)にグリーン水素を製造するための水電解装置「やまなしモデルP2G」を設置した。工場の操業に合わせて24時間稼働させ、順調に水素を製造している。グリーン水素を利用することで年間千㌧の二酸化炭素(CO2)排出削減に貢献する。
同社は2021年8月にサステナビリティ長期方針「はずむ未来チャレンジ2050」を策定し、50年のカーボンニュートラル(CN)実現を発表。同月には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の採択を受け、23年1月には白河工場に水素ボイラーを利用したCO2排出ゼロの生産ラインを構築。設置した水電解装置の電力には構内駐車場の屋根置き太陽光発電(2千㌔㍗)を利用する。
タイヤの製造は、①材料となるゴムと薬品を混ぜて練り合わせる(混合)②各部材を製造③部材を組み立てて成形④熱と圧力を加え化学反応を起こして弾性や耐久性を高める(加硫)――工程を経てタイヤを仕上げる。①の混合工程はエネルギーを大量に使うが、省エネに加え再エネ電力でCN化できる。一方で④の加硫工程は、全製造工程で利用されるエネルギーの約半分を使って高温・高圧の蒸気を作り出し、化学反応を起こすため、電気では代替が難しい。そこで23年1月からのNEDO実証では、白河工場の加硫工程の天然ガスボイラーを水素専焼ボイラーに転換することを検討。具体的には水素貫流ボイラー(三浦工業製、換算蒸気量毎時2㌧、ここでは製造工程に合わせて1・5㌧に設定)1台を工場建屋と隣接した屋外に設置。燃料ベースで数%を切り替えた。
住友ゴム工業サステナビリティ経営推進本部水素プロジェクトグループの中田延明主査は「当工場で使用しているボイラーに比べて5分の1程度の小型のボイラーを、しかも水素燃料で利用するということで懸念もあったがボイラーの性能が良く、すぐ安定して製造ラインで使えるようになった」と話す。
燃料となる水素は、郡山市(天然ガス改質水素)、いわき市(副生水素)、浪江町(低炭素水素)といずれも県内で製造される水素を利用していたが、今年4月からは「やまなしモデルP2G」で作られた水素でその一部が代替されている。中田主査は「当工場は、安定して水素供給が受けられる場所に立地している。1日当たりトレーラ1台分(容量約2千立方㍍)使っていたが、水電解装置を設置してから、週に1台分ほどの配送でよくなった」と話す。
〇大規模利用の足掛かりに
水電解装置として採用した「やまなしモデルP2G」は、NEDOから支援を受けて山梨県や東京電力エナジーパートナー(東電EP)、東レが開発を進めてきた、水と電力を投入すれば簡便に水素製造ができるコンテナ型の小型水電解システムだ。
コンテナの中にはPEM(固体高分子)型の水電解装置(出力500㌔㍗)、変圧器、整流器などが組み込まれている。水素製造能力は毎時120ノルマル立方㍍、年間約100㌧の水素製造を見込む。この工場では、井戸水と系統から購入する再生可能エネルギー由来の電力、構内太陽光を含めた再エネ電力でグリーン水素を製造する。
東電EPカスタマーテクノロジーイノベーション部の久保隆広課長代理は「『やまなしモデルP2G』は小規模と大規模がある。住友ゴム工業が導入したのは、はん用性が高く導入障壁が比較的低いコンテナ型の水電解装置を核にしたもの。このシステムの全国展開を目指しており、住友ゴム工業はその皮切りとなる1社だ。大規模システムは特別高圧受電で、個別に大規模システムを組む大口需要向け。国のグリーンイノベーション基金事業で、国内最大のシステムをサントリー南アルプス白州工場(山梨県)隣接地に設置し、同工場に導入した水素ボイラーに水素を供給している」と語る。
住友ゴム工業は、白河工場の水素で製造したタイヤ「ファルケン・FK520」を、2年前から欧州市場に投入している。中田主査は「グリーン水素の利用割合が増えたので、グリーン化による付加価値で今後さらに顧客ニーズが高まれば他商品でも生産を試みたい」と語る。また30年以降、白河工場での水素の利用の拡大を図り、国内の他工場への展開も検討する。特に中部地区にある名古屋工場では、今年5月に住友ゴム工業と中部圏水素・アンモニア社会実装推進会議(会長=愛知県知事)とで基本合意書を締結した。同工場でも水素利用を積極的に検討していくつもりだ」と話す。
●製造業を支える試験炉独自技術で顧客先の脱炭素化に貢献/ノリタケ
セラミックスおよび関連設備の老舗メーカーのノリタケは2024年、愛知県小牧市の小牧事業所内にある「ヒートテクノテストセンター」に、試験用の水素燃焼式焼成炉を設置した。
20年以降日本を含め、世界各国が50年までにカーボンニュートラル(CN)を実現することを宣言し、その世界的な潮流の中で、企業各社はCO2(二酸化炭素)排出量を削減する試みを行っている。燃焼時にCO2を出さない「水素」に着目する企業も多い。そこでノリタケでは試験用の水素燃焼式焼成炉や、関連した製品開発を通じて、自社のCN化だけでなく、顧客先のCN化、ひいては製造業全体のCO2削減に貢献していく。
ノリタケでは、22年3月に30年度を見据えたありたい姿「VISION2030」を策定し、今後成長が期待される①環境②エレクトロニクス③ウェルビーイング――分野に事業領域の転換を図ることを決定した。また、マテリアリティ(重要課題)に環境負荷の低減を掲げ、50年までのCN実現を目指している。
ノリタケは、世界的なCNの流れを見据え、燃焼時にCO2を排出しない「水素」に注目、水素燃焼式焼成炉の開発に取り組んでいる。林拓路執行役員待遇/エンジニアリング事業部副事業部長は「従来から当社の焼成炉を利用しているお客さまがCNの流れを受け、燃料を都市ガスから水素に変えていく可能性を視野に、水素燃焼式焼成炉の技術開発を進めてきた」と話す。
具体的には21年に東京ガス、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)と共同で世界初のリチウムイオン電池(LiB)電極材用の水素燃焼式連続焼成炉の開発に成功している。この製品は、▽水素燃焼時のNOx(窒素酸化物)発生を抑制▽都市ガス燃焼時と同等の温度精度を実現▽LiBに限らず、千度以上の焼成温度が必要な自動車分野や通信機器分野の部品製造にも応用が期待できる――という特徴を持つ。
〇セラミックスの可能性広げる
ノリタケは、窯業分野での独自技術を生かして1975年に連続式焼成炉「ローラーハースキルン(RHK)」の販売を開始。また、焼成炉だけでなく、乾燥炉や製品の変形を防ぎ品質を向上させる遠赤外線セラミックヒーターなども製品のラインアップに加えている。洋食器製造で培ってきた1300度前後の焼成技術を発展させ、20年ほど前からは、情報化社会の進展、電力需要の増大化という社会ニーズにも対応。電池の電極や半導体、電子部品、自動車部品、ディスプレイなどセラミックスをベースにした部材を焼成する炉を開発・販売してきた。その一部は高温帯に対応した都市ガス燃焼式だ。
CNが求められ、水素の活用が選択肢の一つとして模索される中、ノリタケでは、加熱工程で発生するCO2排出を低減できる、水素燃焼式の焼成炉を開発。顧客先が水素燃焼式炉の導入を検討するに当たり、実際の炉で試験をする機会が極めて少ないという課題を克服するため、愛知県小牧市の小牧事業所内にある「ヒートテクノテストセンター」に顧客試験用の水素燃焼式焼成炉を設置し、2024年12月から試験を開始した。このテストセンターは、本社(名古屋市西区則武新町)に設置されていた試験・評価施設で、13年に小牧市に移転。顧客が購入前に、同社のさまざまな設備を、実利用に近い形でテストできるようになっている。
〇利用者増を期待
水素燃焼式焼成炉は、一定量をまとめて焼成するバッチ式で、幅60×奥行60×高さ50㌢㍍の空間に、重さ40㌔㌘までのテストピース(試験用サンプル)を置いて試験ができる。燃料には水素だけでなく実績のある都市ガスも利用でき、混焼が可能だ。1600度までの温度帯で、幅広くモノづくりに対応できる。搭載バーナーも、従来からある高温・高速の火炎を連続噴出する「ハイスピードバーナー」と、新たに開発した2台のバーナーで効率的に加熱をする省エネ燃焼の「リジェネレイティブバーナー」(TGES開発)を用意している。燃料となる水素は県内企業から購入している。
この試験炉では▽ガス種の違いが、素材や製品に及ぼす影響の評価▽水素と都市ガスの混焼割合を変えて行う燃焼試験▽ガス種やバーナー種、運転時間などの違いを基にした初期投資費用や運転費用の試算――などを検討できる。
植田洋俊エンジニアリング事業部ヒートテクノ部次長は「試験炉では、さまざまなデータが取れる。焼成時間、水素の混焼量なども細かく見てもらい、品質やコストなどお客さまにとって最適な仕様の設備を選んでもらう重要な試験ができる」と話す。この水素燃焼式焼成炉では、これまでひと月に1回程度の利用実績があるという。「これまでの利用者は『とりあえずお試しで』というケースが多い。今後は、本格的に水素燃焼式焼成炉を導入したいというお客さまを増やしていきたい」と植田次長は話す。
今後について林副事業部長は「さらに利用者が増えれば、そこから出た要望を生かして、もっと利用しやすい試験炉になっていくと考えている。例えば、現在は大気と同じ炉内環境で焼成試験をしている。それを従来炉でも行っているような、炉内を窒素雰囲気や水素雰囲気といった条件で試験をしたいという利用者も出てくるかもしれない。そういった要望にも対応していきたい。利用者が増え、ニーズがあれば、大量生産に向く連続焼成可能な水素燃焼のトンネル炉を試験炉として設置することも考えていかないといけない」と語った。
【需要拡大への新たな動き】
●低コストCCMを開発、年度内に量産体制の確立へ/東京ガス
東京ガスは、半導体製造装置大手のSCREENホールディングス(HD)と協力し、PEM(固体高分子膜)形水電解装置の中核部品である「触媒層付き電解質膜(CCM)」の低コスト化技術を開発した。SCREENHDは今年2月、彦根事業所(滋賀県彦根市)にCCMなどを製造する新工場を建設。年度内の量産体制の確立に向けて最終調整に入っている。SCREENHDがCCMをOEM生産し、東京ガスが「PEXEM」(ペクセム)のブランドで国内外の水電解装置メーカーなどに販売する。
PEM形水電解装置の価格はCCMの価格が大きな割合を占める。水素を安価に製造するため、両社はCCMの低コスト化に取り組んできた。
東京ガスはエネファームの開発で培ってきた触媒技術を保有し、CCMに使われる高価な希少金属(イリジウム)の省量化に取り組んでいる。SCREENHDは、電解質膜に触媒を直接塗工・乾燥させる技術を開発し、燃料電池用CCMの連続生産技術を持つ。両社の強みと技術を融合させ、低コストCCMの生産技術を確立した。
東京ガス水素・カーボンマネジメント技術戦略部水電解事業化推進グループの荻原崇事業企画チームリーダーは「イリジウムを微細粒子化し、電解質膜に均一に分散塗工させて低コスト化を図った。これによりイリジウムを省量化しても活性を高められる。どのような溶体を用いて均一に分散させるのかといった技術やノウハウを蓄積してきた」と話す。
現在、EUが2030年に実現を目指す触媒コストの目標に対し、3分の1程度に抑えられているという。
イリジウムを安価な金属に置き換える取り組みも進めている。同チームの高倉康平氏は「イリジウムの代わりになる金属材料を、AI(人工知能)を用いて効率的に探索して絞り込みを進めている。最終的にはイリジウムをゼロにしたい」と語る。
水素を製造後に導管注入することを見据える欧州のニーズに対応するため、4メガパスカルの高圧に対応するための耐久試験も行っている。
SCREENHD水素関連事業室事業開発課の下袴田泰弘課長は「新工場の現在の年間生産能力は約2ギガワット。26~27年度には約6ギガワットまで増強する方針。5千平方センチメートル(70×70センチメートル)の大型CCMの生産が可能で、同サイズ(5千平方センチメートル)の高速生産技術の確立は国内初」と説明する。
東京ガスは、国内外の水電解装置メーカーなどから想定以上に多くの引き合いを受けており、既に30社以上の見込み客を獲得。17社にサンプルを販売し、商用契約に向けた交渉を進めているという。
●初の水素発電の商用利用、燃料電池と専焼エンジン設置/JERAYES
JERAは昨年、ヤンマーエネルギーシステム(YES)と協力し、袖ケ浦火力発電所(千葉県袖ケ浦市)構内に水素発電機を導入した。発電した電気は子会社のJERAクロスを通じ、国内最大規模の撮影スタジオである東宝スタジオ(東京都世田谷区)に供給している。水素発電による電力の商用利用は国内初だ。
東宝は、JERAの太陽光発電(PV)による電力を東宝スタジオで利用しているが、今後、東宝スタジオで使用する全ての電力を、24時間×7日間、CO2(二酸化炭素)フリー電力(24/7カーボンフリー電力)とすることを目指している。JERAはそのための電源の一つとして水素発電機を導入した。
設置したのは、YESが開発し、昨年発売した純水素型燃料電池35キロワット×2台と、同社が国内販売代理店として扱っている独2G(ツージー)社の水素専焼エンジン発電機320キロワット×1台。水素は、隣接するエア・ウォーター・グリーンデザインの袖ケ浦工場からタンクローリーで調達している。
JERA国内事業戦略部の福山弦根上席推進役は「燃料電池は高効率発電が可能で、水素エンジンは負荷追従に優れ、すぐに起動できる。これを組み合わせることで冗長性と柔軟性を高める狙いがあった。また、天候や時刻に左右されない安定供給が可能となることも重視した。環境価値の確保と運用の信頼性向上を両立する最適解がこの組み合わせだった」と話す。
日中はPVによる電気を供給し、夜間や悪天候時に水素発電で供給している。燃料電池と水素エンジンを連携して起動させ、PⅤを水素発電で補完するように運用している。現在は化石燃料由来のグレー水素を使用しているが、今後、再生可能エネルギー由来のグリーン水素の使用も視野に入れて東宝と検討する方針だ。
JERA営業統括部ソリューション営業部の福田將吾部長は「当社は、2050年に国内外の当社事業で排出するCO2をゼロとする『JERAゼロエミッション2050』を掲げている。これを達成するためにはできるだけ多くの選択肢を用意することが重要。現在の火力発電所を活用しながら燃料を水素・アンモニアに転換していくことは有効な手段となる」と話す。
YES発電システム営業部の田原実課長は「自治体や産業分野のお客さま、データセンター事業者などから水素発電についての問い合わせが寄せられていて、導入に向けた計画が進行している案件もある。当社は水素専焼エンジンの開発も進めており、ラインアップの拡大を計画している。パートナー企業と連携し、ゼロエミッション発電を推進させていきたい」と語った。
●水素混焼タービンに更新、27年度以降に30%混焼運転/日清オイリオ
日清オイリオグループは、横浜磯子事業場(横浜市)の老朽化したガスタービンコージェネレーションシステムを発電出力8千キロワット級の水素混焼型ガスタービンコージェネ「PUC80D」(川崎重工業製)に更新し、4月から運転を開始した。水素混焼対応型の大型ガスタービンコージェネの商業運転は国内初。2027年度以降、都市ガス・水素の混焼運転を計画しており、二酸化炭素(CO2)排出量削減を図る。
日清オイリオは、大豆、菜種油をベースとした食用油やフライ専用油、用途別オイルなど、さまざまな種類の植物油を製造しており、原料から油を搾り取る搾油工程や不純物を取り除く精製工程などで多くの熱エネルギーを必要とする。
コージェネは、JFEエンジニアリングがエネルギーサービスで導入した。維持運営を手掛け、同事業場に電気・蒸気を供給している。
JFEエンジは17年に日清オイリオとエネルギーサービス契約を締結し、18年に名古屋工場(名古屋市)、20年に同事業場に高効率大型ガスタービン(いずれも川崎重工業製)を導入した。発電の余剰電力を、多拠点一括エネルギーネットワークサービス「JFE―METS」で日清オイリオの堺工場(堺市)と水島工場(岡山県倉敷市)に融通して効率的に利用する仕組みを構築した。
業界に先駆けて水素燃料コージェネを導入した狙いについて日清オイリオ環境ソリューション室の三浦孝之技師は「当社は、50年のカーボンニュートラルに向けて、30年のCO2排出量を16年度比で半減する目標を掲げている。水素を活用して低炭素化を推進する」と話す。
27年度以降に水素混焼運転を行う予定で、水素の受け入れ・貯蔵スペースも確保してある。水素混焼率30%(体積比)まで対応可能としている。
水素パイプラインなど、インフラが整備され、水素が調達しやすい環境となることも想定し、脱硝設備の増強用スペースを設け、大容量の補器類を採用するなど、将来、混焼率30%以上も可能とする仕様・配置とした。
JFEエンジ電力ビジネス事業部エネルギーサービス事業推進部の太田涼計画グループマネージャーは「(水素のインフラ整備や価格低減に向けて)大規模な需要があることをアピールしていくことは重要で、その一助となるよう、水素混焼の実現に向けて全力で取り組む。京浜地区、磯子地区での水素利活用を盛り上げていきたい」と語った。
●壁面設置可能なSOFC、27年度の商品化へ実証運転/森村SOFCテクノロジー
日本特殊陶業など森村グループ5社の共同出資会社である森村SOFCテクノロジーは、壁面設置が可能な小型・軽量のSOFC(固体酸化物形燃料電池)の試作機を開発し、日特陶の小牧工場(愛知県小牧市)内の実証施設(SUISOnoMOrihub)において3月から実証運転を行っている。発電出力は600ワットで、発電効率は65%を達成。水素の利用拡大を見据え、燃料の都市ガスもしくはLPガスに水素を混合させた発電も可能とした。2027年度の商品化を目指して開発に取り組む。
平板型セルスタックの開発に取り組み、21年から業務・産業用燃料電池向けセルスタックの生産を開始した。東京ガスと三浦工業が共同開発した高効率SOFC「FC―6M」などに採用されている。
高出力密度の平板型セルスタックの特長を生かした発電システムの開発に取り組み、市場開拓を図る。既存の競合商品との差別化を図るため、排熱を利用しないモノジェネレーションに特化し、システム全体の大幅な小型・軽量化を実現した。
管理部の石川秀樹部長は「小型・軽量化によって設置場所の選択肢を増やせる。壁面や狭小地のほか、集合住宅のベランダやパイプシャフトなどにも設置できるようになる。基礎工事を不要とすることで導入コストを低減できる。まずは集合住宅での導入促進を図る」と話す。
試作機は実証研究施設の屋外壁面に設置した。虫などの外乱要素や季節による影響、長期間使用での耐久性などを確認する。水素の供給配管も整備してあり、今後、都市ガスと水素の混合運転も行う。
技術部の山田明主任は「都市ガスへの水素混合は、ラボレベルでは体積比70%まで稼働を確認できている。商品化の際の水素混合率については、今後の市場動向やインフラの整備状況などを踏まえ、検討していく」と語る。
家庭用や可搬式の発電機市場の開拓を狙う。停電時も稼働する停電対応型での市場投入を予定している。小型・軽量のほか、燃料の冗長性という特長を生かし、非常用電源としての活用を訴求する。
●水素混焼ボイラー発売日本サーモエナー、2機種投入
日本サーモエナーは昨年10月、小型貫流ボイラー「スーパーエクオスEQO―2000シリーズ」(換算蒸発量毎時2千キログラム)のラインアップに、水素混焼が可能なガスだきの新機種を追加。食品業界を中心に受注を拡大している。
超高効率102%の潜熱回収仕様と、同99%の高効率仕様の2種類を投入した。潜熱回収仕様は、通常の顕熱回収型エコノマイザーのほかに、潜熱回収型エコノマイザーも搭載し、業界トップクラスの省エネ性能を実現した。
定格(最大)燃焼量と最小燃焼量の比を示すターンダウン比は5対1で、燃焼量を20%まで絞れる。幅広い燃焼制御が可能で、低負荷時の効率を改善した。
新開発のサイクロン自己排ガス再循環バーナー(特許出願中)を搭載し、NOχ(窒素酸化物)排出量を40ppm以下(都市ガス13A実測値、O2=0%換算)に抑え、東京都の低NOχ・低CO2(二酸化炭素)小規模燃焼機器認定制度では「グレードAA」を取得した。
業界最小レベルの全幅900㍉のコンパクトボディを実現。限られたスペースにも設置可能とした。バーナー類の交換により、既設油だきEQO―2000型をガスだきに転換することもできる。
高効率仕様機を使い、グリーン水素(容積比20%)を用いた混焼運転で年間3千時間(平均負荷率30%)稼働させた場合、都市ガス専焼と比べ、年間CO2排出量は13㌧以上削減できると試算した。
同社は、水素燃料の真空式温水発生機「ゼロエミッションバコティンヒーター」もラインアップに持つほか、今年、関東工場(茨城県阿見町)に水素供給設備を新設した。今後の社会情勢の変化や水素供給体制の進展に合わせて水素専焼貫流ボイラーの商品化も検討する方針だ。将来、水素タウンなどが増加する時に、顧客が必要とする熱の温度域に応じて水素対応の貫流ボイラーと真空式温水発生機の使い分けや併用を提案し、さらなる競争力強化につなげる。
水素混焼が可能な貫流ボイラー(換算蒸発量毎時750キログラム)を販売するIHI汎用ボイラと26年4月に統合する予定。両社の持つ技術・ノウハウを生かし、既存製品の改良や新製品の開発につなげることも見据える。

