空飛ぶクルマ(eVTOL)が水素燃料電池を搭載して航続距離を大幅に延伸
米Joby Aviation社が水素燃料電池式eVTOLで841kmの飛行距離を達成
いわゆる「空飛ぶクルマ(eVTOL)」がまもなく世界各国で商用運航を開始する。バッテリーから電力を取り出す構造のため、当面は比較的短距離の移動を想定しているが、ごく近い将来には水素燃料電池を搭載してより長時間の飛行が可能になりそうな気配だ。
eVTOL(空飛ぶクルマ)が続々と登場しているが、その電源はほとんどがリチウムイオンバッテリー。EVと同様、バッテリーの重量/容量や航続距離などで課題を残すものの、それらを解決すべく新たな取組みがすでに始まっている。 各国でさまざまな方策が模索されているが、なかでも注目されているのが、リチウムイオンバッテリーに代わり水素燃料電池を搭載する方法だ。水素ボンベと燃料電池スタックを搭載した基本構造はFCEV(燃料電池自動車)と同じ考え方である。これにeVTOL用の複雑な制御システムと運行管制プログラムを組み合わせることで、バッテリー式を大きく凌ぐ飛行距離が可能になりそうだという。 技術的にはすでに実用レベルに達しており、直近では2024年6月24日に米Joby Aviation社が燃料電池搭載機(以下、FC-eVTOL)によるデモフライトを実施、その飛行距離は従来のバッテリー搭載機を大幅に上回る523マイル(約841km)に及んだことを発表した(7月11日)。テスト飛行終了後、燃料タンクにはまだ10%の水素が残っており、決して限界までテストしたわけではない。ちなみにJoby社は大阪万博でANAホールディングスと共同でデモフライトを実施する予定だ。 現在発表されているeVTOLは、概ね近距離の移動(長くても200~300km前後)を想定して開発されている。内燃機関を搭載するヘリコプターでも軍事用を除けば、民生用では1000kmがせいぜいだ。対してFC-eVTOLは排気ガスや騒音を発生せずに800km以上の連続飛行をこなしたのだから驚く。eVTOL=“空飛ぶタクシー”としかイメージできなかったが、将来は中距離の移動もFC-eVTOLが担うようになるかも知れない。
液体水素を最大40kg搭載して航続距離を確保
Joby社CEOのJoeBen Bevirt氏は、「(FCの搭載により)サンフランシスコからサンディエゴへ、ボストンからボルチモアへ、ナッシュビルからニューオーリンズへ、空港に行くことなく、しかも水以外の排出物なしで飛行できる時代がまもなく到来します」と、この技術の実用化に自信をみせる。 今回のテスト飛行に使われた機体には、Jobyが設計/製造した最大40kgの液体水素を貯蔵できるタンクを搭載する。水素は、Jobyの関連子会社であるH2FLY社が設計/製造した燃料電池システムに供給され、電気、水、熱を生成する。電力はJoby航空機の6つの電気モーターに電力を供給する。また離発着時の追加電力用にサブバッテリーも搭載されている。 FC化の利点は、現在各国で整備進みつつあるバッテリーeVTOLの離発着パッドや、運行管理プログラムとその運営スタッフなどを共有できるところにもある。つまり、水素の運搬や充填インフラを除けば特別な設備が必要なわけではない。インフラを共用しながら、短距離機~中距離機への乗り換えがシームレスに行えるようになるかもしれない。 国内でも、とくに西日本の地方自治体を中心にeVTOL導入の機運が著しく高まっており、空飛ぶクルマ事業への参入企業を熱心に募っている。Joby社はあくまで機体メーカーであり飛行プログラムの開発会社ではあるが、上述のとおり国内の企業とも関係を築いており、日本の空をJobyのFC-eVTOLが飛ぶ日が来るかもしれない。技術はまさに日進月歩で進化している。
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